
相続放棄を検討しているものの、家族から故人の衣類の処分をお願いされて困っている人もいるでしょう。一見価値がなさそうだからといって、相続人の要求どおりに衣類を処分するのは危険です。場合によっては、相続放棄が認められず、生活に支障をきたすリスクもあります。
この記事では、衣類の処分と相続放棄の関係について詳しく紹介します。
記事の後半では、衣類の処分時に注意すべきポイントもまとめています。相続放棄を検討している方は、ぜひ参考にしてください。
このページの目次
1.相続放棄とは?
相続放棄とは、故人の財産を一切引き継がないとする意思表示のことです。基本的に相続分を引き継がなくなりますが、故人の借金を返済する義務がなくなるといったメリットがあります。
相続放棄をするには、相続の開始を知ったときから3ヶ月以内に家庭裁判所への申述が必要です。故人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所へ訪問し、添付書類と併せて申述書を提出します。
原則として相続権を失うので、相続放棄の前後において故人の財産を処分することは認められません。具体的には故人の預金口座からお金を引き出したり、財産的価値のあるものを売却したりするのがNGとされています。
2.故人の衣類や日用品を処分しても相続放棄はできる
故人の衣類や日用品に関しては、基本的に処分しても相続放棄ができます。相続放棄でNGとされるのは、あくまで財産的価値のあるものを処分することです。故人が日常的に着用していた衣類は価値がつきにくく、相続放棄に支障をきたさない場合も少なくありません。
とはいえ財産的価値を有するかどうかは、人によっても判断が分かれます。場合によっては、処分したことで手続きに支障が出る恐れはあります。確実に相続放棄を済ませるには、故人の衣類や日用品の処分についても積極的には参加しないほうが賢明です。
3.衣類や日用品の処分によって相続放棄できなくなることもある

たとえ誰も着ない衣類や使っていない日用品だとしても、財産的価値があれば処分によって相続放棄できなくなることもあります。そのため、どのくらいの価値があるかを見極め、慎重に作業しなければなりません。
ここでは相続放棄ができなくなる具体例を紹介します。
3-1.高価な衣類の処分や形見分け
相続放棄をする際に避けなければならないのが、高価な衣類の処分や形見分けです。たとえば故人が高級ブランドの衣類を好んで持っていたとします。高級ブランドであれば、購入後しばらく経っても価値が残り続けるケースは珍しくありません。
古い衣類だと思って所有した場合、財産的価値のあるものを受け取ったとみなされることもあります。最終的な判断は裁判所に委ねられますが、確実に相続放棄をするのであれば細心の注意を払ってください。
ほかにも衣類関係で処分を避けたほうがよいものが、伝統工芸品です。とくに高齢者の場合、和服や着物を揃えている人も多いでしょう。歴史的価値のある衣類も財産的価値がつきやすいため、着物関係の専門家にも査定をしてもらう必要があります。
3-2.高価なアクセサリー類の処分や形見分け
財産を処分するには、アクセサリー類にも気をつけなければなりません。価値のあるアクセサリー類を受け取った場合、同じく相続放棄ができなくなる恐れがあります。
主な例が、故人の所有しているアクセサリーの素材に金が使用されているケースです。貴金属のなかでも特に高級な素材である金が使われていると、財産的価値があるとみなされる確率が高まります。
そのため、故人の思い出の品だとしても、貴金属を形見分けするのは基本的にNGです。故人の衣類を処分または形見分けするときは、高価なアクセサリー類が紛れていないかをよく確認してください。
4.衣類や日用品の処分以外で相続放棄できなくなるパターン
衣類の処分以外にも、相続開始後にとった行動次第で、相続放棄をできなくなることがあります。以下のようなパターンです。
- 被相続人の資産を弁済に充てる
- 被相続人のお金を生活に充てる
- 被相続人が所有していた動産・不動産を売却する
- 被相続人の普通預金口座を解約する
- 被相続人の借りていたアパートを解約する
- 被相続人の携帯電話を解約する
- 被相続人の入院代を支払う
- 遺産分割協議に参加する
相続放棄を検討している方は、上記のような行動は避けなければなりません。これらについては以下の記事でさらに詳しく解説しています。あわせてご覧ください。
関連記事:相続放棄後にしてはいけないこととは?認められる行為も解説
5.実際に衣類や日用品を処分して相続放棄が認められた判例
過去の判例を見てみると、相続放棄の前後に衣類や日用品の処分をおこなったとしても相続放棄が認められたケースも存在します。
- 東京高等裁判所 昭和37年3月19日決定
- 山口地裁徳山支部 昭和40年5月13日決定
- 大阪高等裁判所 平成14年7月3日決定
これらの判例では、相続放棄をした方が衣類やその他日用品を処分や形見分けしたのですが、最終的に相続放棄が認められています。処分や形見分けしたものが「金銭的価値のないもの」であり、財産の処分にはあたらないと判断されたためです。
このことからも、相続のなかで衣類の処分をおこなう際は、「そのものの価値」が重視されるということが伺えます。
6.相続放棄前後の衣類処分時に注意すべきポイント4選

相続放棄前後に衣類や日用品を処分する際は、以下4つのポイントに注意してください。
- 処分ではなく仕分けや保管に徹する
- 査定書を探す
- 買取業者から査定を受ける
- 無闇に手をつけずほかの相続人に任せる
相続放棄の効力が失われないように、これらのポイントをしっかりと押さえてください。
6-1.処分ではなく仕分けや保管に徹する
相続放棄をするのであれば、処分ではなく仕分けや保管に徹してください。そもそも処分とは、財産の性質を変えたり、財産権を変動させたりする行為です。したがって財産を破棄する、あるいは他人に譲渡してしまうと相続放棄ができなくなります。
衣類の片付けを頼まれたとしても、ただ保管するだけであれば処分には該当しません。衣類の財産的価値が判明するまでは、現状のまま保管してください。
場合によっては、保管するうえで費用が発生することもあります。こういった費用も、故人の財産から払ってしまうと単純承認とみなされる可能性があります。ポケットマネーで対応するのが望ましいでしょう。
6-2.査定書を探す
衣類を処分しようと考えているのであれば、あらかじめ査定書がないかも併せて確認してみてください。査定書とは、資産の価値が示されている書類のことです。財産的価値が客観的に把握できれば、明細書でも問題ありません。
6-3.買取業者から査定を受ける
故人が古くから衣類を所有していた場合、査定書や明細書が保管されていることも少なくないでしょう。そのため価値がわからないのであれば、買取業者から査定を受けるのをおすすめします。
とくに古い衣服は、一目見ただけではブランド品と気づかないケースも珍しくありません。安物だと思って売却してみたら、実際には高価な製品という可能性もあります。
一般的な衣類であれば、買取店や古着屋、リサイクルショップなどで査定してもらえます。ただし着物や民族衣装といった種類は、古美術商などの専門的な機関での査定も検討しましょう。
自宅に訪問してくれる業者に依頼すると、衣類を持ち運んだり、車を出したりする手間が省けます。とはいえ査定は相続放棄において重要な作業となるため、信頼性の高さを一番に重視して業者を選んでください。
6-4.無闇に手をつけずほかの相続人に任せる
ここまでさまざまな対処法を説明しましたが、一番は無闇に自分で手をつけず、ほかの相続人に任せることが重要です。自分では気をつけているつもりでも、知らないうちに単純承認とみなされる行為をする恐れがあります。親切心で作業をした結果、相続放棄ができなくなったら後悔が残ってしまうでしょう。
相続放棄をするのであれば、故人の財産を整理する義務はありません。ほかに相続人がいなくても、特別な事情がない限りは相続財産清算人に対処してもらえばよいだけです。
先程も説明したとおり、相続放棄は3ヶ月間と準備する期間が短く設定されています。まずは相続放棄する準備を整え、故人の衣類などの整理は可能な範囲で協力するとよいでしょう。
7.相続放棄前後の衣類の処分は弁護士に相談しよう
衣類の処分にも、相続放棄できなくなるリスクが少なからずあります。自分一人で対応できると思っていても、まずは弁護士に相談しましょう。
相続問題に強い弁護士であれば、相続放棄におけるNG例を教えてくれます。さまざまな事例にも目を通しているので、適切なアドバイスを受けられるでしょう。
実際に相続放棄をするには、家庭裁判所で複雑な手続きを済ませなければなりません。手続きが滞ってしまうと、熟慮期間の経過により財産を処分していなくても相続放棄ができなくなります。こうしたリスクを避けるうえでも、弁護士に依頼するのをおすすめします。
8.まとめ
ここまでの内容を整理すると、単なる古着であれば、処分をしても相続放棄が認められる可能性は高いでしょう。しかしすべての衣類を処分してもよいわけではなく、財産的価値について細かくチェックしなければなりません。仮に高級な衣類を処分してしまうと、相続放棄が無効になってしまいます。
とはいえ財産的価値があるかどうかは、素人では判断できるものではありません。専門業者に依頼し、各衣類について査定してもらう必要があります。
また相続放棄をする人が、衣類の処分に携わることもリスクが高いといえます。よほどの事情がない限りは、ほかの相続人に任せるようにしましょう。
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このコラムの監修者
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第二東京弁護士会所属