
亡くなった親が多額の借金をしていることがわかり、相続放棄したいと思う人もいるでしょう。資産のみならず、負債も原則として相続放棄の対象となります。
この記事では、親の借金を相続放棄するための具体的な手順について紹介します。親の借金を巡るトラブルについて悩まされている方は、ぜひ参考にしてください。
このページの目次
1.親の借金は相続の対象になるか

仮に親が借金を抱えている場合、相続の対象になるのでしょうか。まずは、民法で定められている相続の仕組みについて押さえましょう。
1-1.親が亡くなると借金も含めて自動的に相続が開始する
民法882条により、被相続人が死亡すると自動的に相続が開始(単純承認)します。借金も相続財産の一つにあたるため、相続人に承継されるのが原則です。
親の生前は、連帯保証人にならない限り子に返済義務はありません。一方で相続が開始すると、子は親の権利や義務を受け継がないといけません。したがって単純承認をしたら、子は親が抱えていた借金の返済義務を負います。
1-2.相続放棄すれば返済を免れる
借金を免れたいのであれば、相続放棄を選択する方法があります。相続放棄とは、借金も含めて相続財産のすべてを引き継がないようにする行為です。
相続放棄をしたい場合は、相続の開始を知った日から3ヶ月以内に申述しないといけません。スピーディーさが求められるので、できる限り早めに準備しましょう。
関連記事:借金は相続放棄できる?借金と相続放棄の関係や注意点など徹底解説
1-3.相続放棄した場合親の借金は誰が払うのか
相続放棄をした場合、親が残した借金は一体誰が支払うことになるのでしょうか。この疑問について、いくつかのケースに分けて詳しく見ていきましょう。
1-3-1.親の借金の行方①基本的には次の順位の相続人に移る
基本的には、次の順位の法定相続人に相続権が移っていきます。日本の民法では、相続人になれる人の順位が定められています。
第1順位 | 子(子が先に亡くなっている場合は孫などの直系卑属) |
第2順位 | 直系尊属(父母、祖父母など。親等の一番近い人が優先) |
第3順位 | 兄弟姉妹(兄弟姉妹が先に亡くなっている場合は甥姪) |
たとえば、亡くなった親に子(あなた)と親の父母がいる場合、あなたが相続放棄をすると、相続権は第2順位である親の父母に移ります。もし親の父母もすでに亡くなっているか、あるいは相続放棄をすると、次に第3順位の親の兄弟姉妹(あなたから見ると叔父叔母)に相続権が移る可能性があります。
このように、相続放棄をすると、借金を含む相続財産を引き継ぐ権利と義務が、次の順位の相続人に順番に移っていくのです。そのため、自分が相続放棄をする際には、次の順位の相続人になる可能性のある親族に、その旨を伝えておく配慮も大切になる場合があります。
1-3-2.親の借金の行方②すべての相続人が放棄した場合
もし、すべての順位の法定相続人が相続放棄をした場合、またはそもそも相続人が誰もいない場合、親の借金はどうなるのでしょうか。
この場合、借金が自動的に消滅するわけではありません。債権者やその他の利害関係人(たとえば、被相続人に財産を管理してもらっていた人など)は、家庭裁判所に「相続財産管理人」の選任を申し立てることができます。
相続財産管理人が選任されると、その管理人が亡くなった親の財産(プラスの財産)を調査・換価し、そこから債権者への支払いなどをおこないます。もし、プラスの財産で借金をすべて返済できれば問題ありませんが、プラスの財産よりも借金の方が多い場合は、相続財産管理人が弁済できる範囲で弁済し、残りの借金については、基本的には債権者が回収できなくなる(事実上、貸し倒れとなる)ことが一般的です。
1-3-3.親の借金の行方③保証人がいた場合
重要な注意点として、亡くなった親の借金に保証人(特に連帯保証人)がいた場合です。
この場合、たとえ相続人全員が相続放棄をしたとしても、保証人の責任はなくなりません。 保証契約は、相続とは別の契約だからです。債権者は、保証人に対して借金の返済を請求することができます。
もし、あなたが親の借金の保証人になっていた場合、あなたが相続放棄をしても、保証人としての支払い義務は残ってしまう点に注意が必要です。
2.相続放棄を選択するメリット
相続放棄を選んだほうが、今後の生活においてプラスに働く場合もあります。相続放棄を選択するメリットは、主に以下の3つです。
- 借金の返済義務から免れられる
- 相続財産を巡るトラブルから逃れられる
- 相続にかかる税金から逃れられる
一つずつ解説します。
2-1.借金の返済義務から免れられる
相続放棄を選ぶことで、借金の返済義務を免れることが可能です。相続放棄申述受理通知書(証明書)を相手に提示すれば、基本的に督促は来なくなります。
単なる借金の返済だけではなく、不法行為に基づく損害賠償請求やローンも相続放棄の対象です。
関連記事:【弁護士監修】相続財産に借金が含まれる場合の対処法や手続きの流れ
2-2.相続財産を巡るトラブルから逃れられる
相続財産を巡るトラブルから逃れられる点も、相続放棄のメリットの一つです。親が莫大な資産を持っており、遺言がない場合は遺産分割協議でもめる恐れがあります。
親族内の争いに巻き込まれるだけでも、多大なストレスを抱えてしまうでしょう。遺産分割協議は相続人全員で協議しないといけませんが、相続放棄を選べば参加する必要はなくなります。
関連記事:相続でもめる原因とは?仲の良い家族でも注意したいポイントを解説
2-3.相続にかかる税金から逃れられる
親の財産を相続することで、税金が発生する可能性もあります。たとえば遺産額が「3,000万円+(600万円×相続人数)」を超えた場合、相続税を納めないといけません。不動産を相続したら、固定資産税や都市計画税も納税の対象となります。
加えて不動産の場合、税金以外にも維持費が発生します。経済的に苦しいのであれば、相続放棄で逃れることも選択肢の一つとなるでしょう。
3.相続放棄を選択するデメリット
相続放棄にはメリットだけではなく、以下のようなデメリットもいくつか存在します。
- 親の資産も相続できなくなる
- 一度申述が受理されたら取消しできなくなる
- ほかの相続人が債権者から催促される
- 不動産の保存義務が残る可能性がある
これらをよく見比べて、自分にとってどちらを選ぶのが望ましいのかを判断してください。
3-1.親の資産も相続できなくなる
相続放棄を選ぶと、親のプラスの資産も相続できなくなります。親が多額の借金を抱えている一方で、莫大な資産を持っていることもあるでしょう。
借金があるからといって、すぐに相続放棄をするのは望ましくありません。まずは財産調査を入念におこない、資産と負債の額を明確にしましょう。
3-2.一度申述が受理されたら取消しできなくなる
家庭裁判所が一度申述を受理したら、相続放棄が取り消せなくなる点もデメリットの一つです。焦って手続きしてしまうと、資産を手に入れるチャンスを失いかねません。
相続放棄には絶対的な効力が働くので、申述するかどうかを慎重に判断しましょう。
3-3.ほかの相続人が債権者から催促される
自分が相続放棄を選ぶと、ほかの相続人が債権者から催促されてしまいます。たとえ被相続人の子全員が相続放棄しても、「被相続人の直系尊属→兄弟姉妹」の順で債務を引き継ぎます。
相続放棄を選んだからといって、債務自体が消滅するわけではありません。親族に迷惑がかかる可能性がある点に注意してください。
3-4.不動産の保存義務が残る可能性がある
相続放棄した不動産について、状況によっては一定期間その保存義務が残る可能性がある点に注意が必要です。
現在の民法では、相続放棄をした人が「その放棄の時に相続財産に属する財産を現に占有しているとき」は、次に相続人となる人や相続財産の清算人に対してその不動産を引き渡すまでの間、自己の財産におけるのと同一の注意をもって保存する義務を負うとされています。
たとえば、親が住んでいた家に同居していた相続人が相続放棄をした場合などが該当し得ます。この保存義務を怠り、不動産が倒壊するなどして第三者に損害を与えた場合には、損害賠償責任を問われる可能性もあるため、安易に放置できません。
4.親の借金を相続放棄するために必要な手続き

親の借金を相続放棄するには、次の手順に沿って手続きする必要があります。
- 相続放棄に必要な書類を準備する
- 「相続放棄申述書」を家庭裁判所に提出する
- 家庭裁判所からの照会書に回答する
- 相続放棄申述受理通知書をもって債権者に連絡する
各手続きの注意点をまとめます。
4-1.相続放棄に必要な書類を準備する
まずは、相続放棄に必要な以下の書類を用意してください。
- 相続放棄申述書
- 被相続人の戸籍謄本(死亡日の記載があるもの)
- 申述人の戸籍謄本(被相続人との関係がわかるもの)
- 被相続人の住民票除票・戸籍附票のいずれか
- 収入印紙(800円分)および郵便切手
ただし状況に応じて必要書類も変わるため、家庭裁判所や弁護士に確認したほうが賢明です。相続放棄申述書には、資産と負債に関する記載欄があります。すべて記載するには、あらかじめ財産調査を済ませないといけません。
4-2.「相続放棄申述書」を家庭裁判所に提出する
必要書類が揃い、財産調査が完了したら「相続放棄申述書」を管轄の家庭裁判所に提出します。窓口に持参するだけではなく、郵送で送る方法も認められています。
仕事などで時間が取れない場合は、弁護士が代理で提出することも可能です。
4-3.家庭裁判所からの照会書に回答する
「相続放棄申述書」を提出したあと、家庭裁判所から照会書が送られます。相続放棄の意思や財産の消費の有無などを聞かれますが、各家庭裁判所によって質問内容が異なります。
質問内容をよく確認し、偽りのないように回答してください。
4-4.相続放棄申述受理通知書をもって債権者に連絡する
相続放棄が受理されたら、申述人あてに「相続放棄申述受理通知書」が送付されます。債権者に「相続放棄受理通知書」のコピーを渡せば、督促から逃れられます。
こちらの書類は再発行できないため、必ずコピーで対応してください。紛失した場合、もしくは原本の提出を求められたら、1通150円で「相続放棄受理証明書」を家庭裁判所から発行してもらいましょう。
5.親の借金を相続放棄するときの注意点
親の借金を相続放棄するときは、以下の4点に注意してください。
- まずは相続財産調査をおこなう
- ほかの相続人や次順位の相続人に事前に説明する
- 相続財産を処分・隠匿した
- 熟慮期間を経過した
- 被相続人の連帯保証人になっている
それぞれ見ていきましょう。
5-1.まずは相続財産調査をおこなう
親の借金に対して相続放棄を検討するときは、まず相続財産調査をしっかりおこなうのが非常に重要です。相続放棄は、プラスの財産もマイナスの財産もすべて引き継がないという手続きのため、どのような財産や借金がどれくらいあるのか全体像を把握しないと、本当に放棄するのが最善の選択か判断できません。
たとえば、あとから価値の高いプラスの財産が見つかり、相続放棄したのを後悔するケースや、逆に借金が想定よりはるかに多く、早く放棄すべきだったと気づくケースもあります。
また、調査の過程でうっかり相続財産を処分してしまうと、法定単純承認とみなされ相続放棄ができなくなるリスクも避けられます。預貯金、不動産、有価証券、借入金、連帯保証債務の有無などを丁寧に調べましょう。
関連記事:【相続後に借金が発覚】泣き寝入りしないための対処法 | 相続放棄はできる?
5-2.ほかの相続人や次順位の相続人に事前に説明する
親の借金のために相続放棄をする場合、他の相続人や、自分が放棄すると次に相続権が移る可能性のある親族へは、事前にその旨を伝えておくのが望ましい対応です。
あなたが相続放棄をすると、相続権は次の順位の相続人に移り、その人が親の借金と向き合う必要が出てきます。何も知らされずに突然相続人になったと知らされると、その後の対応に困惑したり、親族間でトラブルが生じたりする可能性があります。
法的な義務ではありませんが、事前に一言説明し、相手にも相続放棄を検討するなどの準備期間を与える配慮を示すと、円満な解決につながりやすいでしょう。誠意をもって、できるだけ早く伝えるのが大切です。
5-3.相続財産を処分・隠匿しない
相続放棄をするときは、相続財産を処分・隠匿してはいけません。相続財産を処分・隠匿などすると、単純承認したとみなされ、相続放棄をできなくなるためです。
被相続人の預貯金口座を引き出したり、所有物を売却・使用したりする行為が、相続財産の処分・隠匿に該当します。
葬祭費用への支出など、例外的に認められている手続きもありますが、原則として被相続人の財産には手をつけないようにしましょう。処分や隠匿にあたるか迷った場合は、一人で判断せずに弁護士へ確認してください。
関連記事:相続財産を処分してしまったら相続放棄はできない?対処法はあるのか
5-4.相続放棄の熟慮期間に注意する
相続放棄の申述ができるのは、相続の開始を知った日から3ヶ月以内です。この期間が経過したら、家庭裁判所に申述しても却下されてしまいます。
ただし起算点は、あくまで「相続の開始を知った日から」です。被相続人が死亡した事実を知らなかったと認められたら、死亡日から3ヶ月以上経過しても相続放棄は有効となります。
5-5.被相続人の連帯保証人になっている場合は債務の支払い義務が残る
相続人が親の連帯保証人になっていたら、相続放棄したところで「連帯保証債務」は消滅しません。相続放棄はあくまで「主債務を引き継がない」という意思表示であり、相続によって連帯保証債務が発生しているわけではないためです。
連帯保証債務は、主債務が消滅すると一緒に消える性質を持ちます(随伴性)。しかし先述のとおり、相続放棄は主債務そのものを消滅させるわけではありません。したがって債権者から弁済を要求されたら、親の連帯保証人である相続人は応じる必要があります。
6.相続放棄ができない場合の対処法

相続放棄が認められず、借金を返済できないときは、以下のような対処法があります。
- 即時抗告をする
- 債務整理を検討する
幅広く方法を知っておき、なるべく最善な手段をとれるようにしましょう。
6-1.即時抗告をする
家庭裁判所から申述を却下されても、2週間以内であれば即時抗告が認められます。即時抗告とは、高等裁判所に不服を申し立てる手続きです。
とくに相続放棄の場合、「相続の開始を知ったときから」が起算点となっているなど、基準があいまいな部分もあります。却下の審判に納得がいかなかったら、即時抗告も検討してみましょう。
6-2.債務整理を検討する
相続放棄ができず、借金を返すのが難しいときは、以下の債務整理も検討するとよいでしょう。
種類 | 内容 |
---|---|
任意整理 | 裁判所を介さずに返済方法を話し合う |
特定調停 | 調停委員会を間に入れて返済方法を話し合う |
個人再生 | 借金の減額を裁判所に申し立てる |
自己破産 | 借金の免除を裁判所に申し立てる |
返済の負担を軽減できる便利な制度ですが、ローンやカードの審査が5〜7年間程度通らなくなる恐れがあります。今後の生活もよく考えたうえで判断してください。
7.相続放棄するならまずは弁護士に相談しよう
相続放棄をする際には、必ず弁護士に相談することをおすすめします。必要書類の収集や提出を代理でしてくれるほか、仮に認められなかった場合でも紛争の解決もサポートしてくれます。
弁護士は、さまざまな法律問題に対応できるのが強みです。事務所によっては、制限付きの無料相談を提供しているところもあるので、積極的に活用してください。
8.まとめ
親が借金を抱えたまま死亡しても、基本的には相続放棄ができます。ただし申述期間が相続の開始を知った日から3ヶ月以内と短いので、なるべく早めに準備しなければなりません。
一方で財産を処分したとみなされた場合、相続放棄が認められなくなります。申述が受理されるためにも、相続トラブルに強い弁護士に相談しながら手続きを進めましょう。
このコラムの監修者
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