相続放棄をするなら家の片付けはNG!では家の片付けはどうするべき?

自分の親が多額の借金を抱えていたり、相続財産に関わりたくなかったりする場合、相続放棄を検討する人もいるでしょう。

そして、相続放棄の検討中に、被相続人の家を片付けなければならないときもあります。そんなとき、どこまで手を付けてよいか迷ってしまうはずです。

この記事では、相続放棄を選択するにあたって家の片付けをするときの注意点を紹介します。相続放棄を選択する予定の人は、ぜひ今後の生活の参考にしてください。

1.相続放棄をするなら家の片付けはNG!

相続放棄をするのであれば、原則として家の片付けはNGです。やり方を誤ってしまうと、相続放棄が認められない可能性も高まるためです。

ここからは、民法のルールを取り上げつつ、家の片付けがNGとされている理由を解説します。

1-1.相続放棄でNGとされる「処分」にあたる可能性が高い

家の片付けがNGとされる理由は、財産の「処分」にあたる可能性が高いためです。処分は、財産の性質を変更する行為を指します。

たとえば家の片付けをしているとき、故人が大切にしていた時計が出てきたとしましょう。誰も使わないからといって時計を誰かに売却すると、財産的価値のある物を処分したとみなされてしまいます。本人のなかでは片付けをしたつもりでも、一般的には処分とみなされるので注意が必要です。

ほかにも故人の預貯金口座を解約したり、住んでいる家を壊したりすることも処分に該当します。このようにさまざまな行為が処分に該当しうるので、よほどの事情がない限りは家の片付けをしてはいけません。

関連記事:相続財産を処分してしまったら相続放棄はできない?対処法はあるのか

1-2.家の片付け以外で相続放棄前後にやってはいけないこと

相続放棄を選択するなら、家の片付け以外にもやってはいけないことがあります。主に、以下8つの行為です。

  • 被相続人の資産を弁済に充てる
  • 被相続人のお金を生活に充てる
  • 被相続人が所有していた動産・不動産を売却する
  • 被相続人の普通預金口座を解約する
  • 被相続人の借りていたアパートを解約する
  • 被相続人の携帯電話を解約する
  • 被相続人の入院代を支払う
  • 遺産分割協議に参加する

「相続放棄前後にやってはいけないこと」については、以下の記事でさらに詳しく解説しています。あわせてご覧ください。

関連記事:相続放棄後にしてはいけないこととは?認められる行為も解説

2.相続放棄を選択しながら家の片付けを進める方法はある?

故人の借りているアパートの大家から、家の片付けをするように頼まれたとしても、相続放棄するのであれば原則として応じる必要はありません。しかし自分の親の後始末であるため、できる限り協力したいと考える人もいるでしょう。

相続放棄を選びつつも、家の片付けを進める方法はいくつかあります。なるべく応じないほうがよいものの、協力する際の参考にしてください。

2-1.「保存行為」に該当する遺品整理をおこなう

まず意識してほしいポイントは、「保存行為」に該当する遺品整理をおこなうことです。保存行為とは、財産の現状や性質を維持する状態を指します。

具体例として挙げられるのが、壊れている故人の所有物を修繕する行為です。たとえば、台風で故人の所有している不動産の屋根が剥がれてしまい、その補修をする行為が該当します。ただしケースバイケースではあるため、弁護士などの専門家に確認したうえで着手してください。

ほかにも故人の抱えている債務を、自らのお金で支払うことも保存行為とみなされます。本来は大家から家賃を催促されたとしても、支払いに応じる必要はありません。しかし気持ち的に無視できないのであれば、故人のお金ではなく、ポケットマネーで対応しましょう。

2-2.金銭的価値のないものは形見分けする

金銭的価値のないものに関しては、一般的には形見分けしてもよいとされています。主な例として挙げられるのが、故人と一緒に撮った写真です。

ただし金銭的価値があるかどうかは、人によって判断が分かれるので注意しなければなりません。自分では価値のないものと思っていても、実際には高い値段がつく場合もあるためです。

そもそも前提として、形見分け自体が相続放棄において避けたい行為の一つとされています。金銭的価値のなさそうなものでも、一定のリスクがあることを押さえてください。

2-3.全員が相続放棄するなら「相続財産清算人」を選任する

家庭の中には、相続人全員が相続放棄を選択するところもあります。こうしたケースでは、相続財産清算人を選任するのがおすすめです。

親が亡くなったとき、第一順位の配偶者や子が全員放棄を選択したら、相続権は第二順位(直系尊属)と第三順位(兄弟姉妹)に引き継がれます。相続財産清算人を選ぶのは、第三順位の兄弟姉妹も含めて全員が相続放棄した場合です。

相続財産清算人を選定するには、家庭裁判所に申立てなければなりません。申立書に加え、被相続人の戸籍謄本や住民票除票・戸籍附票といった添付書類も必要です。続柄の関係で必要となる添付書類が変わるため、弁護士や家庭裁判所に確認しながら準備を進めましょう。

3.相続放棄後に家の片付けを進めなければならない場合もある

相続放棄を選択しても、状況によっては家の片付けを進めなければならない場合もあります。ここでは主に2つのケースについて解説するので、片付けするときの参考にしてください。

3-1.建物の腐敗・腐乱が進んでいるケース

まず片付けの義務が生じる要素の一つが、建物の腐敗や腐乱が進んでいるケースです。主な原因として、孤独死やゴミ屋敷が該当します。

特にアパートを借りている場合、物件の所有者は大家です。腐敗や腐乱が進んでしまったら、原則として契約者の相続人が原状回復義務を負わないといけません。

また、親が一軒家を購入している場合、放置していると異臭や害虫の被害が周辺住民に及ぶ可能性があります。放置し続けてしまうと、周辺住民から損害賠償を請求されてもおかしくありません。

このようなケースでは、相続放棄をした人も片付けに協力したほうが賢明です。しかし自分一人で作業を進めても、腐敗や腐乱は解決しないでしょう。必ず特殊清掃サービスを提供しているプロに依頼し、適切に処理できる環境を整えてください。

3-2.賃貸契約の連帯保証人になっているケース

賃貸契約の連帯保証人になっているケースも、片付けに応じる義務が生じる要素の一つです。連帯保証人とは、主たる債務者の債務を肩代わりする人を指します。親の連帯保証人になった場合は、親が亡くなったところで保証債務を弁済する義務は消滅しません。

片付けをするにあたって、原状回復に必要な費用を請求されることもあるでしょう。連帯保証人は、この費用についてもしっかりと対応する必要があります。親が部屋で喫煙していたり、ペットを飼っていたりすると費用が請求されやすくなることも押さえてください。

4.相続放棄したあとに家の片付けをおこなう際の注意点やポイント

これまで説明したように、相続放棄をしたあとの家の片付けは高いリスクが伴います。どうしても片付けを進めなければいけないときは、以下5つのポイントに注意してください。

  • 家の片付けをほかの相続人に全て任せる
  • 公共料金の請求や未払いの医療費があっても勝手に支払わない
  • 価値のあるものには一切手をつけない
  • 大家に片付けを催促されても応じない
  • 被相続人と同居していたのなら家の管理責任を負う

一つずつ解説します。

4-1.家の片付けをほかの相続人に全て任せる

原則として、故人の家の片付けはほかの相続人に全て任せましょう。遺産を引き継ぐ相続人が代わりに片付けすればよく、わざわざ相続放棄する人がリスクを負う必要はありません。

相続放棄していないほかの相続人から家の片付けを頼まれたとしても、よほどの事情がない限りは関与しないほうが賢明です。

4-2.公共料金の請求や未払いの医療費があっても勝手に支払わない

故人に公共料金や医療費の未払いがあっても、勝手に支払うのはNGです。故人の債務を弁済したとして、相続放棄が認められなくなる恐れがあります。

公共料金や医療費についても、原則として相続人に対応してもらいましょう。どうしても気になるのであれば、故人のお金ではなくポケットマネーで支払ってください。

4-3.価値のあるものには一切手をつけない

どうしても家の片付けに対応せざるを得なかった場合は、価値のあるものに一切手をつけないことを心がけましょう。自分では財産的な価値がないと思っていても、実は高額な製品であるケースも考えられます。

素人だけで判断せず、専門家にきちんと査定してもらうのをおすすめします。

4-4.大家に片付けを催促されても応じない

大家に片付けを催促されても、相続放棄をするのであれば応じなくても問題ありません。相続放棄した旨を相手に主張し、ほかの相続人に片付けを依頼しましょう。

ただし先程も説明したとおり、連帯保証人になっているなどの理由で、例外的に片付けが必要となるケースもあります。

賃貸契約の解除を催促されることもありますが、同じく単純承認とみなされる恐れがあるので相続放棄をする側が対応してはいけません。契約に関する手続きも、ほかの相続人や相続財産清算人に任せましょう。

4-5.被相続人と同居していたのなら家の管理責任を負う

故人と同居していたケースでは、相続放棄をしても管理義務が発生する可能性はあります。民法第940条には、財産を現に占有しているときは、相続人や相続財産清算人に引き渡すまで保存しなければならないとあるためです。

管理義務があるといえども、勝手に財産を処分するのが認められるわけではありません。「保存行為」が義務付けられるだけであるため、誤って解釈しないように注意してください。

5.まとめ

今回の記事で押さえてほしいポイントは、相続放棄をするのであれば故人の家の片付けはNGであることです。財産を処分してしまったために、相続放棄できなくなるといったトラブルも起こりかねません。リスクの大きい作業となるので、ほかの相続人や相続財産清算人に作業を任せましょう。

一方で建物の腐敗が進んでいたり、故人の賃貸契約の連帯保証人になっていたりするときは、例外的に片付けが必要な場合もあります。きちんと相続放棄を済ませるべく、どこまでの対応が必要かを弁護士に確認するとよいでしょう。

弁護士法人池袋吉田総合法律事務所では、相続や遺言書作成に関する無料相談を受け付けています。遺言書に関する問題でお困りの方は、ぜひ当事務所までご相談ください。

このコラムの監修者

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弁護士 吉田 公紀
弁護士 吉田 公紀
第二東京弁護士会所属

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