相続の発生を知らなかった場合はどうなる?対処法やリスクを解説

家族と音信不通となっていると、親が亡くなったことを聞かされないケースもあるでしょう。しかしこういった状態を放置していると、思わぬ相続トラブルに巻き込まれる恐れもあります。

この記事では、相続の発生を知らなかったときの対処法について解説します。経済的な損失を避けるためにも、ここで紹介する手続きを押さえてください。

1.相続の発生を知らなかった場合はどうなるのか

相続の発生を知らなくとも、相続権を失うわけではありません。民法では、被相続人が死亡した段階で相続が自動的に発生すると規定されています。

そのため相続を知らなかった場合でも、「相続回復請求権」を行使することが可能です。

相続回復請求権とは、本来の相続人(真正相続人)が相続権を侵害された場合に、相続財産の回復を求める権利です。この権利を行使することで、相続の発生を知らずに財産を独占されていた場合でも、自身の相続分を取り戻せます。

法律に明確な条文はなく、解釈が分かれる点もありますが、一般的には、相続権のない者(表見相続人)に対し、相続権の回復を求めるものとされています。典型的なケースは、相続放棄の無効、養子縁組の取消などです。

しかし遺留分に関しては、相続が開始したときから最長で10年間の時効が設定されています。最低限の相続分がもらえず、ほかの相続人への請求を考えている場合は注意が必要です。

関連記事:相続で遺留分がもらえないときはどうする?具体的な対処法を解説

2.相続の発生を知らなかった場合の対処法2つ

相続の発生を知らなかった場合、以下の対処法が考えられます。

  • 財産を引き継ぐ
  • 財産を受け取りたくなければ相続放棄をする

これらの方法を採る際には、自らが行動を起こさないといけません。それぞれの対処法において、特に押さえるべきポイントを解説しましょう。

2-1.自身が財産を引き継げるようにする

まず方法の一つとして挙げられるのが、自身が財産を引き継ぐようにすることです。基本的に相続の効力は、被相続人が死亡した段階で自動的に発生します。3カ月以内に相続放棄の手続きをしなければ、単純承認をしたとみなされるのが原則です。

とはいえ市町村役場や家庭裁判所は、単純承認が成立したと教えてくれるわけではありません。したがって被相続人の死亡を知らなければ、いつまでも財産が譲渡されない状態になります。

相続したいと考えている場合は、ほかの相続人に対して相続回復請求権を行使し、財産を取り戻せるようにしましょう。

2-2.財産を受け取りたくなければ相続放棄をする

家族と音信不通の者のなかには、金輪際関わりを持ちたくないと考えている人もいるでしょう。財産も受け継ぎたくないと考えているのであれば、相続放棄の選択肢があります。

しかし相続放棄は、家庭裁判所で手続きしなければ認められることはありません。期限もあり、相続開始を知ったときから、3カ月以内に申述書を提出しないと、単純承認したとみなされます。弁護士の協力も仰ぎつつ、迅速に手続きをすることが大切です。

3.遺産分割の完了後に財産を相続したいときの対処法

相続の発生を家族から知らされていない場合、すでに遺産分割が完了している恐れもあります。勝手に遺産分割協議書が作成されていたら、やり直しを求めるとよいでしょう。どういった対処が必要になるかを解説します。

3-1.相続人および被相続人の調査をする

まずは相続が、本当に発生しているかを確認する必要があります。その際に必要となるのが、戸籍謄本の収集です。被相続人の出生〜死亡までの戸籍謄本を取得し、亡くなっている事実を公的書類で確認しましょう。

遺産分割協議は、相続人全員の参加が必須条件です。やり直しを求めるためにも、誰が相続人かを戸籍謄本から調べないといけません。なかには、被相続人に隠し子がいるケースもあります。見落としがないように、弁護士の力も借りながら徹底的に調べましょう。

3-2.遺産分割協議を再度する

戸籍謄本から被相続人と相続人の状況がわかったら、遺産分割協議のやり直しを要求してください。相続人である自身が遺産分割協議に参加していなければ、取り決めは法律上無効となります。家族から断られたら、このルールをしっかりと伝えるようにしましょう。

ただしやり直しとなった遺産分割協議では、家族同士でもめる可能性も高まります。できる限り早めに決着をつけるには、弁護士に同行してもらったほうが賢明です。そのほうがコミュニケーションもスムーズに進み、自身の主張も通りやすくなります。

3-3.解決しないときは調停・訴訟を検討する

遺産分割協議のやり直しを要求したものの、家族が一向に応じてくれないこともあるでしょう。無事に協議がおこなわれたとしても、自身の要求に一切耳を貸さない場合も考えられます。

その際には、調停や訴訟も検討したほうが賢明です。遺産分割調停は家庭裁判所に申立てをし、調停委員会の仲介で話し合いができます。最終的には裁判官が中立の立場で妥協点を探してくれるので、堂々めぐりを避けられるのもメリットの一つです。

しかし調停は、あくまで当事者間の合意に基づく手続きです。訴訟のような強制力が働くわけではありません。遺産分割調停で決着しない可能性もあり、その場合には訴訟手続きに移行することも検討しなければなりません。

4.相続放棄したいときの対処法

家族と関わりを持ちたくないのであれば、一般的に相続放棄の手続きに進みます。万が一、被相続人が多額の借金を抱えていたら、債権者から返済を迫られる恐れもあるためです。

ほかにも相続が成立したことで、相続税の支払い義務が生じる場合もあります。経済的な損失を防ぐためにも、相続の発生を知った段階で放棄の手続きをしないといけません。

4-1.相続開始を知ってから3カ月以内に手続きする

上述したとおり相続放棄には、「相続開始を知ってから3カ月以内」と期限が設定されています。正当な理由により、被相続人が亡くなったのを最近知った場合は、死亡日から3カ月以上経過しても手続きは可能です。

しかし相続放棄においては、申述書や戸籍謄本といった提出書類を揃えないといけません。手続きには時間がかかるので、なるべく早い段階から着手しましょう。

4-2.正当な事由があることを立証できるようにする

たとえ相続開始を知ったのが最近でも、死亡日から数年以上経っていたら家庭裁判所は疑問に思います。このような疑惑を晴らすためにも、正当な事由があることを立証しなければなりません。

家庭裁判所へ伝える方法として、上申書(事情説明書)の提出が挙げられます。上申書は基本的に任意で作成するものであり、A4サイズの用紙1枚でまとめるのが一般的です。相続の開始を知らなかった理由について、弁護士のアドバイスももとに作成するとよいでしょう。

4-3.被相続人の財産には手を付けない

相続放棄の前後において、被相続人の財産には手を付けてはいけません。単純承認をした場合、資産のみならず負債も相続の対象となるので注意が必要です。一般的に単純承認は、以下の行為が該当します。

  • 被相続人の預貯金を自分の口座に移した
  • 被相続人の預金口座を解約した
  • 被相続人が所有していた不動産を売却した
  • 貴金属類といった高価なものを形見分けした

相続放棄をしたあとに財産を処分してしまうと、無効となる恐れもあります。

4-4.相続放棄の手続きをおこなう

書類が一通り揃ったら、家庭裁判所に「相続放棄申述書」を提出しましょう。必要な添付書類として、以下の種類が挙げられます。

書類の種類内容
相続人本人の戸籍謄本被相続人との関係がわかるもの
被相続人の住民票附票・戸籍附票いずれか一方を取得する
被相続人の戸籍謄本死亡日の記載があるもの
収入印紙800円分
郵便切手家庭裁判所により金額が異なる

続柄によっては、追加で必要な書類が出てくる可能性もあります。弁護士や家庭裁判所に確認したうえで揃えるようにしましょう。

4-5.手続き後は債権者や後順位相続人に連絡する

相続放棄をしたあとは、債権者や後順位相続人に連絡したほうが賢明です。

法的には債権者に対して、相続放棄をした者が通知する義務はありません。一方であらかじめ通知をしておけば、相手からの督促を避けられます。その際には、家庭裁判所から渡される「相続放棄受理通知書」のコピーを渡しましょう(原本は自分で保管)。

併せて後順位相続人にも連絡しておくと、今後の相続トラブルを防ぎやすくなります。自身が被相続人の子であれば、第二順位の祖父母または第三順位の叔父叔母が後順位相続人に該当します。

5.相続手続きを誰一人していない場合のリスク

被相続人が亡くなった場合、相続人全員で手続きをしなければなりません。誰か一人でも欠けているときに起こりうるリスクは以下の3つです。

  • 相続放棄ができなくなる恐れがある
  • 延滞税を課せられる場合がある
  • 被相続人の不動産を放置したら過料の対象になりうる

一つずつ解説します。

5-1.相続放棄ができなくなる恐れがある

相続手続きを放置していると、相続放棄できなくなる恐れがあります。上申書を提出した場合でも、意図的に放置していたら「正当な事由がある」とはみなされません。

相続放棄は、基本的に単独での手続きです。ほかの相続人が相続を選んだとしても、自身が放棄したい場合は単独で家庭裁判所に申述しましょう。

関連記事:親の借金は相続放棄できる?借金と相続放棄の関係や注意点など徹底解説

5-2.延滞税を課せられる場合がある

相続財産が高額な場合、相続税の支払い義務が生じる恐れもあります。一般的に遺産の総額が「3,600万円+(相続人の人数×600万円)」より低ければ、相続税はかかりません。

しかしこの金額をオーバーしており、単純承認した場合は被相続人の死を知った日の翌日から10カ月以内に確定申告をする必要があります。条件に該当し、必要な手続きをしていないと相続税のほかに延滞税が課せられます。確定申告は、相続人全員が共同で提出するのが賢明です。

5-3.被相続人の不動産を放置したら過料の対象になりうる

被相続人が不動産を所有していた場合、誰も手続きしないと未登記の状態になります。2024年4月より相続登記が義務化されており、破ると10万円以下の過料(行政罰)を課せられかねません。

相続登記の期限は、不動産を相続してから3年以内です。自分だけが相続したら単独名義、ほかの相続人と共有のときは共有名義として登記しましょう。

6.困ったときは相続に強い弁護士へ相談しよう

相続の発生を知らなかったときは、財産を受け継ぐかどうかにかかわらず、弁護士に相談しましょう。遺産相続も相続放棄も、基本的に複雑な手続きが求められるためです。

万が一、訴訟沙汰に発展しても、損失を招かないように最善の対策を考えてくれます。弁護士も十人十色であるため、誰が信頼できそうかを慎重に決めましょう。

7.まとめ

相続の発生を知らなかった場合、基本的には財産を引き継ぐか、放棄するかの二択になります。どちらの方法を採るにせよ、被相続人が亡くなったことを知ったら早く対処しなければなりません。

対処が遅れてしまうと、経済的な損失を招く恐れもあります。弁護士とよく話し合いながら、最善の方法を採れるように準備しましょう。

弁護士法人池袋吉田総合法律事務所では、相続に関する無料相談を受け付けています。相続に関する問題でお困りの方は、ぜひ当事務所までご相談ください。

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