被相続人が亡くなったあとに、起こりやすいトラブルの一つが遺留分の取り扱いです。相続人の一人から遺留分を請求されたものの、さまざまな事情があって渡したくないと考える人や、特定の親族に自分の財産を渡したくないと考える方もいるのではないでしょうか。
そこでこの記事では、以下の内容について詳しく解説していきます。
- 遺留分の基本的な仕組み
- 遺留分を渡さなくていい5つの方法
- 遺留分の額を少なくする方法
- 相続人から遺留分を請求されたときの対処法
被相続人の生前に進めたい対策も解説していますので、遺留分について知りたい方はぜひ最後までご覧ください。
このページの目次
1.遺留分の基本的な仕組み

遺留分とは、「兄弟姉妹以外の法定相続人に与えられる最低限の相続分」のことです。
通常、相続が発生すると民法の法定相続分に従って財産が分配されます。ただし法定相続分は必ず守らないといけないルールではなく、遺産分割協議や遺言で自由に分割方法を決めても問題ありません。
とはいえ分割方法を自由に決めるとなると、遺産をまったくもらえない相続人も現れてしまう恐れもあります。そこで最低限の遺産を得られるように、遺留分が民法に規定されています。
1-1.対象となる相続人と割合
遺留分の対象となる相続人は、兄弟姉妹以外の法定相続人です。兄弟姉妹は、生活状況から被相続人との関係が薄くなる傾向にあります。法定相続でも第三順位と優先度は低いため、遺留分が与えられていません。
したがって被相続人から見た配偶者と子、直系尊属が遺留分を与えられている人物です。遺留分には、以下のような法定相続分とは違った分配方法が定められています。
相続人(被相続人から見た続柄) | 遺留分の割合 |
配偶者のみ | 2分の1 |
子のみ | 2分の1 |
直系尊属のみ | 3分の1 |
配偶者と子 | 4分の1ずつ |
配偶者と直系尊属 | 配偶者3分の1、直系尊属6分の1 |
1-2.対象となる財産
遺留分の対象となる財産の一つが、遺言や遺産分割協議で分配されたものです。加えて生前贈与や死因贈与、遺贈によって財産を分配された財産も対象になります。
ただし生前贈与については、原則として以下の制限があります。
受贈者の立場 | 制限の内容 |
相続人(特別受益にあたるケース) | 相続開始前10年以内に贈与された財産 |
相続人以外 | 相続開始前1年以内に贈与された財産 |
被相続人と生前贈与で財産をもらい受けた側が、遺留分を侵害することを知っていたときは、当該期間を経過した分についても請求可能です。
2.遺留分は渡すのが原則として義務付けられる
法定相続人から遺留分を請求されたら、原則として渡すのが義務付けられています。いつまでも支払わないでいると、調停や訴訟をされる恐れもあります。
請求者側は遺留分が渡されないのを理由に、相手の財産を差し押さえることも可能です。請求を放置していると、お互いの関係が悪化するだけではなく、経済的にもリスクを抱える可能性があるため、十分な注意が必要です。
関連記事:相続で遺留分がもらえないときはどうする?具体的な対処法を解説
3.遺留分を渡さなくていい5つの方法とそれぞれの注意点

遺留分は、条件を満たしていれば請求されても渡さなくてよい場合があります。具体的には、以下5つの方法です。
- 遺留分を渡したくない法定相続人に相続放棄を依頼する
- 遺留分を渡したくない法定相続人が遺留分を放棄する
- 相続欠格事由に該当する
- 廃除の要件に該当する
- 遺言書の「付言事項」を活用する
一つずつ解説していきます。
3-1.遺留分を渡したくない法定相続人に相続放棄を依頼する
まず方法の一つとして挙げられるのが、該当の法定相続人に相続放棄を依頼することです。相続放棄をしたらすべての財産を引き継ぐ権利がなくなり、遺留分も請求できません。
しかし相続放棄は、あくまで本人の意思によって選択するものです。強制はできないため注意してください。なお3カ月以内に申述しなければならず、当該期間を過ぎたら手続きできなくなります。
3-2.遺留分を渡したくない法定相続人が遺留分を放棄する
相続放棄のほかにも、遺留分を放棄してもらう方法もあります。相続放棄とは異なり申述期限はありませんが、当該手続きも本人の意思によらないといけません。
家庭裁判所に申述したとしても、合理的な理由がなければ遺留分の放棄は認められません。さらに当該法定相続人に対し、遺留分放棄に見合う金銭などの譲渡も必要です。
3-3.相続欠格事由に該当する
該当の相続人が相続欠格事由にあたる場合、相続権自体を失います。相続欠格事由の条件は、以下のとおりです。
- 被相続人を殺害した(未遂も含む)
- 被相続人が殺害されたのに告訴しなかった
- 被相続人を騙して遺言書を書かせた
- 遺言書を勝手に隠匿・破棄した
ただし相続人が上記の条件に当てはまると、相続権はその子や孫に移ります(代襲相続)。これらの人に財産を引き継がせたくないのであれば、ほかの方法で遺留分の取得を手放してもらう必要があります。
3-4.廃除の要件に該当する
相続欠格事由以外にも、廃除によって相続権を失わせる方法も可能です。廃除とは次の条件に該当する相続人を、被相続人の意思により推定相続人から除く方法を指します。
- 被相続人に対して虐待をしていた
- 被相続人を過度に侮辱する行為があった
- 著しい非行が見られた
廃除するには、被相続人や遺言執行者による家庭裁判所への申立てが必要です。相続欠格と同じく代襲相続が認められるため、当該相続人に子や孫がいるときは、ほかの方法も一緒に試しましょう。
3-5.遺言書の「付言事項」を活用する
遺言書の「付言事項」に、「遺留分を請求しないでほしい」と記載する方法もあります。付言事項は法的効果はない点に注意が必要ですが、被相続人自身の気持ちを訴えるうえで有効です。
付言事項を活用するには、被相続人がその点を意識して遺言書を作成しなければなりません。被相続人が生きている間に話し合い、遺言書を書いてもらうように説得しましょう。
しかし被相続人の意思に反して無理やり書かせた場合、遺言書の効力が発生しなくなるので注意してください。
4.遺留分の額を少なくする方法もある
遺留分の請求を完全に拒否できなくとも、財産の額を少なくする方法もあります。主な方法と実行するときの注意点について、以下の4点をご紹介します。
- 相続放棄と生前贈与を組み合わせる
- 養子縁組を結ぶ
- 生命保険金を活用する
- 【経営者の場合】除外合意・固定合意を検討
詳しく解説します。
4-1.相続放棄と生前贈与を組み合わせる
遺留分の額を少なくする方法の一つが、相続放棄と生前贈与を組み合わせることです。まずは被相続人が生前に、財産を渡したい相続人へ贈与します。被相続人が亡くなったあとは、その相続人が相続放棄を選択する方法です。
相続放棄をしたら相続権を失うため、実際は相続人以外の者に対する贈与となります。結果的に贈与分は遺留分請求されず、渡す額を少なくできます。
4-2.養子縁組を結ぶ
親族が財産を渡したいと思う人がいるのであれば、その人と養子縁組を結ぶ方法も効果的です。養子も、相続分は実子と変わりありません。
子どもの人数が増えれば、一人あたりの相続分も減少します。したがって遺留分を請求されたとしても、請求額を上手く減らせます。ただし親子関係を築こうとする意思がないと、養子縁組が無効になる場合もあるので注意してください。
4-3.生命保険金を活用する
遺留分を減らすには、生命保険金の活用もおすすめです。生命保険金のなかの死亡保険金は、民法903条における特別受益にはあたらないとされています。
そのため死亡保険金として譲渡された分は、遺留分の対象にはなりません。ただし生命保険金額が遺産より著しく大きくなるときは、対象になる可能性もあるので注意してください。
4-4.【経営者の場合】除外合意・固定合意を検討
被相続人が経営者である場合、除外合意や固定合意を検討する方法もあります。
除外合意 | 同族会社株式を遺留分の計算から除外する合意 |
固定合意 | 同族会社株式を遺留分の計算に含めるとき評価額を固定する合意 |
企業の財産を、一部の相続人による遺留分の請求から守れます。ただし合意は、相続人全員から得なければなりません。
5.ほかの相続人から遺留分を請求されたときの対処法3選
相続人から遺留分の請求を迫られたとき、きちんと対応せずにいると大きなトラブルにつながる可能性が高まります。遺留分を渡したくない場合でも、冷静に話し合わなければなりません。
ここからは、他の相続人から遺留分を請求されたときの対処法を以下の3つに分けて解説していきます。
- 正当な権利があるかをチェックする
- 感情的にならずに説得する
- 一人で抱えず弁護士と相談する
それぞれ見ていきましょう。
5-1.正当な権利があるかをチェックする
まずは遺留分を請求してくる相続人に、正当な権利があるかをチェックしましょう。相続欠格事由に当てはまっていないか、廃除されていないかなどを調べてください。
また、もし遺言に「遺留分を渡さないように」と記載されていても、この文言には強制力が働きません。相続人側の、遺留分を請求する権利のほうが優先されるためです。法律のルールを正しく押さえつつ、自分自身も権利を主張するようにしましょう。
5-2.感情的にならずに説得する
遺留分の請求に対し、口論やトラブルになることが多々あります。特に意識しなければならないのは、感情的に相手と争わないことです。
感情的になってしまうと、お互いに話がかみ合わなくなる可能性も高まります。話が前に進まなくなり、より解決が難しくなるでしょう。
話し合いをするときは、メモや録音を用いて証拠を残すようにしましょう。仮に調停や訴訟に発展したとしても、証拠として残すことで裁判の材料になります。
関連記事:相続でもめる原因とは?仲の良い家族でも注意したいポイントを解説
5-3.一人で抱えず弁護士と相談する
遺留分を請求されたとしても、一人で抱え込んではいけません。まずは相続問題に強い弁護士を探し、いつでもアドバイスを受けられるようにしましょう。
弁護士への依頼は、調停や訴訟の手続きに強い点がメリットです。たとえ調停や訴訟に持ち込んでも、有利な状態で争えるように進めてくれます。
弁護士探しのコツは、各法律事務所の公式サイトから実績を確認することです。これまでどういった相続トラブルを解決したかを参考にするとよいでしょう。口コミを参照し、客観的な意見を参考にするのも効果的です。
6.遺留分関連で弁護士に依頼できる業務

遺留分関連で弁護士に依頼できる業務は、主に以下の4つです。
- 遺留分の放棄・相続放棄
- 相続人の廃除・相続欠格
- 遺言書の作成
- 遺言執行者への指定
一つずつ解説していきます。
6-1.遺留分の放棄・相続放棄
遺留分の放棄や相続放棄を弁護士に依頼することで、対応を適切に進めることが可能です。
遺留分の放棄は、生前に家庭裁判所の許可が必要であり、手続きが複雑です。また、相続放棄は、相続開始後3カ月以内に手続きを行う必要があります。
弁護士に相談することで、手続きの流れや必要書類の準備など、スムーズに進められるようになります。
6-2.相続人の廃除・相続欠格
相続人の廃除は、被相続人に対する虐待や重大な侮辱などが理由となり、家庭裁判所の審判が必要です。一方、相続欠格は法律上、自動的に相続権を失う事由を指します。
弁護士のサポートにより、適切な手続きを進めることができます。
6-3.遺言書の作成
遺言書の作成は、相続トラブルを未然に防ぐために重要です。遺言書作成を弁護士に依頼することで、法律的に有効な遺言書を作成できます。
特に、遺留分に配慮した内容にすることで、後々の紛争を避けることが可能です。また、遺言執行者の指定や特定の財産の分配方法など、細かな点も弁護士と相談しながら決めることができます。
6-4.遺言執行者への指定
遺言執行者とは、遺言の内容を実現する役割を持つ人です。弁護士を遺言執行者に指定することで、相続手続きを円滑に進めることができます。
法律の専門家である弁護士が執行者となることで、相続人間のトラブルを防ぎ、公平・適切な遺言の執行が期待できます。
7.まとめ
遺留分を請求された場合、特別な事情がなければ相手に渡さなければなりません。一方で特定の条件を満たすことで、渡さなくて済む場合もあります。この記事で紹介した条件と照らし合わせつつ、対抗できそうなポイントをまずは探しましょう。
遺留分を巡るトラブルを防ぐには、被相続人の生前から準備を進めないといけません。終活はデリケートな話題でもあるため、家族で話し合いにくいでしょう。しかし入念に話し合うことが、こうした問題を解決に導いてくれます。
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