
相続放棄を検討しているものの、親の携帯電話の請求が来て困っている人もいるでしょう。しかし自分で勝手に故人の携帯を解約してしまうと、相続放棄ができなくなる恐れもあります。
この記事では相続放棄をするうえで、携帯電話の解約を避けるべき理由とすでに手続きしてしまったときの対処法を解説します。携帯電話を巡る手続きでお困りの方は、ぜひご覧ください。
このページの目次
1.故人の携帯を解約すると相続放棄できなくなる可能性がある

故人の携帯を勝手に解約すると、相続放棄できなくなる可能性があります。しかし実際には正解がなく、見解によっても大きく異なっているのが現状です。ここでは相続放棄の性質を見ながら、故人の携帯解約が認められるかを解説していきます。
1-1.相続放棄が認められる条件
そもそも相続放棄とは、相続人が故人の財産をすべて放棄することを申し立てる手続きです。相続放棄が認められる条件として、以下のケースが挙げられます。
- 相続が発生したあとに手続きをしている
- 熟慮期間以内に申述を済ませている
- 相続放棄の前後において、単純承認をしていない
単純承認とは、故人が遺した財産や負債を無条件ですべて相続する行為です。単純承認に該当する行為をおこなってしまうと、相続放棄が認められない可能性が高くなります。
一方で、財産の価値を維持する保存行為については、相続放棄に影響がないとされています。
1-2.携帯の解約は単純承認とみなされるか
ここで問題となるのが、故人の携帯電話の解約が処分とみなされるかです。一般的には、故人の携帯解約は「携帯電話を処分する行為」として認識されるといえます。そのため、携帯の解約は単純承認と見なされる可能性があるのです。
一方で手続きを放置していると、誰も使用していないのに携帯会社から督促が届いてしまいます。つまり携帯電話の解約は、財産の減少を防ぐための行為といった見方もできないわけではありません。この解釈であれば、保存行為とみなすことも可能です。
このように携帯電話の解約と相続放棄の関係には、さまざまな見解があります。ただし裁判などで明確な答えが出ていない以上、安易に手続きするのは危険です。相続放棄を選ぶのであれば、自分自身はなるべく手続きに関わらないようにするのが賢明です。
2.故人の携帯は誰が解約できるか
携帯電話は、所有者が亡くなっても自動的に解約されるわけではありません。必ず、遺族の誰かが代わりに解約手続きをする必要があります。具体的に誰が故人の携帯を解約できるかは、各携帯会社によって異なる場合もあるので注意してください。
たとえばauであれば、家族以外に施設関係者も解約の手続きが可能です。
参考:契約者が亡くなった場合の手続きについて知りたい | au
ソフトバンクの場合も、基本的にauと同じく家族や施設関係者が代理人となります。ただし全く関わりのない第三者が、故人の携帯を解約することは認められていません。
3.相続放棄しつつ故人の携帯を解約するには
故人の財産を引き継ぎたくないのであれば、携帯の解約よりも相続放棄を優先することをおすすめします。
しかし、携帯代を支払い続けるのが無駄に感じたり、携帯会社に迷惑をかけたくないと思う人もいたりするでしょう。相続放棄をしつつ、故人の携帯を解約する方法について紹介します。
3-1.ほかの相続人に携帯の解約を依頼する
故人の携帯を解約する際には、ほかの相続人に手続きを依頼したほうが賢明です。たとえば父親が亡くなったときは、母親か兄弟姉妹に一度話してみましょう。携帯会社によっては、相続人でなくとも親族であれば解約手続きが認められることもあります。
ただし親族が故人しかおらず、誰も相続人がいないというケースも考えられます。こうしたケースでは、相続財産清算人が手続きするのが一般的です。相続放棄を選ぶ人が、わざわざリスクを冒してまで解約する必要がありません。
3-2.相続放棄した旨を携帯会社に連絡する
相続放棄の手続きが完了し、無事に受理されたら、携帯会社へ連絡を入れてください。相続放棄した事実を伝えておけば、携帯会社から督促が来なくなります。
携帯会社によっては、相続放棄が完了した旨の証明を求めてくる場合もあります。その際には、携帯会社に対しどのような書類を提出すればよいか確認してください。
一般的には家庭裁判所から送付される相続放棄申述受理通知書、市町村役場で入手できる戸籍謄本が必要です。
4.相続放棄の際に解約以外で避けたい携帯の手続き

携帯の解約以外にも、相続放棄の際に避けたい携帯関連の手続きがいくつかあります。特に注意したい手続きは、以下の3つです。
- 携帯の名義を変更する
- 故人の財産から未払い料金を支払う
- 携帯(本体)を第三者に売却する
一つずつ解説していきます。
4-1.携帯の名義変更をする
まず避けたい手続きの一つが、故人の携帯電話の名義変更です。名義変更とは、携帯電話の契約者を別の者に変える手続きを指します。
たとえば名義を、父親(故人)から自分に変えたとしましょう。見方によっては、故人の携帯電話(財産)を自分が譲り受けたといえます。
以上から携帯電話の名義変更は、解約以上に相続放棄が認められなくなる可能性が高いでしょう。名義に関しても、相続放棄の手続きが完了するまではひとまず放置しても問題ありません。
4-2.故人の財産から未払い料金を支払う
相続放棄する際には、故人の携帯料金の支払いに応じる必要はありません。仮に故人の財産から支払うと、法定単純承認とみなされてしまいます。
携帯会社から督促が来ると、対応しないといけないのではと焦ってしまいますよね。しかし支払いに応じてしまうと、自身の相続放棄に支障をきたす可能性が高まるので注意が必要です。
携帯料金をどうしても支払いたいのであれば、故人の財産には手を付けず、ポケットマネーで対応するといった方法もあります。とはいえ本来は支払う義務がないものに対し、わざわざお金を使うのは損するだけです。
相続放棄をしたうえで携帯会社に連絡すれば、督促が届くことは基本的にありません。焦って対応するのではなく、まずは相続放棄の手続きを済ませてしまいましょう。
4-3.携帯(本体)を第三者に売却する
相続放棄をしたいのであれば、携帯電話(本体)を第三者に売却するのは避けましょう。携帯電話自体に価値があると認められたら、相続財産に該当するケースもあるためです。
携帯会社との契約が終了しても、本体の価値がなくなるわけではありません。本体を入手した人が改めて契約すれば、再び携帯電話としての機能を取り戻せます。本体に異常がなく、まだ使える場合は第三者に売却せず、そのままにしておくのが望ましいでしょう。
なお携帯会社との契約を継続したまま、通話可能な状態で携帯電話を売却する行為は違法です。携帯電話不正利用防止法に違反するほか、売却した相手が犯罪に使う恐れもあります。そもそも携帯電話の売却を推奨していませんが、取り扱いには十分注意してください。
5.故人の携帯を解約してしまったらすぐに弁護士へ!
すでに説明したとおり、携帯電話の解約によって相続放棄ができなくなるかは、裁判で具体的に示されたわけではありません。状況次第では、解約後も相続放棄が認められる可能性はあります。すでに故人の携帯電話を解約してしまったときは、すぐに相続に強い弁護士へ相談してください。
相続放棄は、相続発生を知った日から3ヶ月以内に申述しなければならず、ただでさえスピーディーな対応が求められる手続きです。手続きが認められるかどうかで悩んでしまい、熟慮期間を過ぎてしまうと申述さえできなくなります。
ひとまずは弁護士からアドバイスをもらいつつ、可能であれば申述を済ませておくことをおすすめします。弁護士によっても見解が異なるので、複数の法律事務所に訪問しつつ、どのように対応すべきかを検討しましょう。
6.相続放棄の際に携帯の手続き以外で避けたいこと
携帯電話の手続き以外にも、相続放棄をするのであれば避けたいことがいくつかあります。主に以下の4点です。
- 故人の預貯金を生活費に充てる
- 故人の所有する不動産を売却する
- 故人が契約していた賃貸アパートを解約する
- 故人の財産から入院代を支払う
相続放棄が無効にならないためにも、これらもあわせて押さえてください。
関連記事:相続放棄後にしてはいけないこととは?認められる行為も解説
6-1.故人の預貯金を生活費に充てる
故人の財産を私的な目的で使ったら、単純承認したとみなされます。故人の預貯金口座からお金を引き出したり、自身のプライベートな支払いに充てるのは避けましょう。
ほかにも故人が生前に負っていた債務を、当人の預貯金から弁済する行為も単純承認にあたります。一方で葬祭費用の支払いに関しては、通常必要と認められる範囲であれば、例外的に相続放棄が可能です。
6-2.故人の所有する不動産を売却する
金銭だけではなく、所有している不動産も財産に含まれます。相続放棄をするのであれば、故人が生前に所有していた不動産を第三者に売却する行為も避けましょう。故人が所有していた不動産の登記名義人を、自分にすることもNGとされる行為の一つです。
6-3.故人が契約していた賃貸アパートを解約する
故人が契約していた賃貸アパートを解約することも、相続放棄において避けたほうが賢明です。
賃貸アパートも携帯電話と同じく、オーナーから解約の手続きが求められる場合もあります。解約自体が相続放棄の効力を奪うかどうかは見解が分かれるものの、基本的には推奨できません。
こちらも可能であれば携帯電話の解約と同様に、ほかの相続人に任せるのをおすすめします。
6-4.故人の財産から入院代を支払う
故人が生前に入院していた場合、病院から入院代や治療費を請求されることもあります。こちらも故人の負っている債務となるため、相続放棄を選んだ人が応じる必要はありません。
故人の財産で対応してしまうと、相続放棄が認められなくなる可能性も高まります。ほかの親族に任せるか、どうしても支払いたいのであればポケットマネーで対応しましょう。
7.まとめ
携帯電話の解約は、相続放棄の効力を失わせる恐れがあります。しかし判例で具体的に示されたわけではなく、法律のプロでも見解が分かれているのが現状です。
仮に携帯電話を解約してしまった場合でも、問題なく相続放棄が認められる可能性もあります。一人で抱え込まず、最寄りの弁護士からアドバイスをもらいましょう。
携帯電話以外にも、相続放棄時にやってはいけない行為がいくつか存在します。トラブルが発生しないように、相続放棄のルールを自分でも入念にチェックしましょう。
このコラムの監修者
弁護士法人池袋吉田総合法律事務所は、相続全般、遺産分割、遺留分、相続放棄、生前対策、遺言作成、事業承継、
相続税など、法律のプロとして幅広い案件を取り扱っています。
初回相談は無料です。一人で悩まず、まずは当事務所へご相談ください。

第二東京弁護士会所属