
親が亡くなり、相続手続きをしようとしたものの、ほかの相続人から「相続放棄してくれ」と言われて困っていませんか。相手の要求を飲んでしまうと、相続財産を得る機会が失われる恐れもあります。
この記事では「相続放棄してくれ」と言われた方向けに、要求を飲まないことの重要性や対処法を解説します。相続放棄の基本的な知識も紹介するので、手続きする際の参考にしてください。
このページの目次
1.ほかの相続人から「相続放棄してくれ」と言われたらどうする?

ほかの相続人から「相続放棄してくれ」と言われても、簡単に応じてはいけません。相続権は、各相続人に与えられた権利の一つだからです。大事な権利を守るために、5つの対処法を解説していきます。
- 要求を無視する
- 自身の法定相続分を調査し主張する
- 「相続分の放棄」をする
- 「相続放棄」をする
- その他の相続人とコミュニケーションをとる
それぞれ確認してください。
1-1.対処法①要求を無視する
対処法の一つとして挙げられるのが、ほかの相続人からの要求を無視することです。相続放棄をするかどうかは、本人の意思で自由に決められます。たとえ故人の面倒を見ていなかったという事実があったとしても、相続放棄を強いられる理由にはなりません。
一度相続放棄を選んでしまうと、原則として申述の撤回ができなくなります。申述を済ませてしまいあとから後悔をしたところで、失った相続分は戻ってきません。
他人に言われたからではなく、相続するかしないかは、自分自身の判断で決めてください。
1-2.対処法②自身の法定相続分を調査し主張する
自身の法定相続分を調査し、ほかの相続人に対して権利を主張することも対処法の一つです。民法では、法定相続分について以下の規定があります。
相続人(故人からみた続柄) | 法定相続分 |
・配偶者・子1人 | ・配偶者(2分の1)・子(2分の1) |
・配偶者・子2人 | ・配偶者(2分の1)・子(4分の1ずつ) |
・配偶者・直系尊属 | ・配偶者(3分の2)・直系尊属(3分の1) |
・配偶者・兄弟姉妹 | ・配偶者(4分の3)・兄弟姉妹(4分の1) |
しかし民法の規定は必ずしも守る必要はなく、遺産分割協議で自由に配分を決められます。あまりにも相続分が少なく決められたのであれば、遺留分侵害額請求をしてください。
遺留分とは、相続人が最低限もらえる財産のことです。兄弟姉妹には権利が認められませんが、配偶者や子は「法定相続分×2分の1」、直系尊属は「法定相続分×3分の1」を請求できます。
関連記事:相続で遺留分がもらえないときはどうする?具体的な対処法を解説
1-3.対処法③「相続分の放棄」をする
ほかの相続人から要求されたとき、相続放棄ではなく「相続分の放棄」を選ぶ方法もあります。相続分の放棄は家庭裁判所に申述せず、遺産分割協議にて財産を引き継がない旨を主張する手法です。自身に財産が渡らないことを記した遺産分割協議書が作られたら、署名捺印して印鑑証明書とともに提出します。
ただし相続分の放棄をしても、故人の借金は引き継いでしまうので注意が必要です。故人の財産に関わりたくないのであれば、正式に相続放棄を選ぶとよいでしょう。
1-4.対処法④「相続放棄」をする
故人の財産に関与したくないときは、ほかの相続人の要求どおりに相続放棄しても問題ありません。相続放棄を選択すると、資産と負債を引き継ぐ権利および義務が失われます。故人が多額の借金を抱えており、引き継ぐ余裕がないのであればおすすめです。
申述先の家庭裁判所は、故人の最後の住所地を管轄する機関が該当します。つまり故人が東京都に住所を置いていた場合、九州地方で亡くなったとしても東京家庭裁判所に申述しなければなりません。
関連記事:親の借金は相続放棄できる!具体的な手続きの方法や注意点
1-5.対処法⑤その他の相続人とコミュニケーションをとる
特定の人から「相続放棄してくれ」と要求されたら、その他の相続人にもコミュニケーションをとってみてください。たとえば母親と兄、自分の計3名が相続人と仮定します。仮に兄から「相続放棄しろ」と言われても、母親とも一度話してみるのがおすすめです。
母親が兄と話し合うなど、要求を取り下げるように計らってくれるかもしれません。その他の相続人とコミュニケーションをとっても解決しないときは、弁護士を中心とする法律の専門家も頼りましょう。
2.相続放棄の基本を理解することが大切
ほかの相続人の要求どおりに相続放棄をする前に、制度の仕組みを理解しなければなりません。ルールやメリット・デメリットを押さえつつ、確実に手続きを進めることが大切です。特に理解しておきたいポイントを5つに分けてご紹介します。
2-1.相続放棄には申述期限がある
まず注意してほしいポイントは、相続放棄には申述期限があることです。具体的には「相続開始を知ったときから3ヶ月以内」に申述しなければなりません。この期間を過ぎてしまうと、相続を単純承認したとみなされます。
ただし起算点となるのは、あくまで相続開始を知ったときです。親の死亡から数年以上経ったとしても、相続開始を知ったのが数日前ならルール上は相続放棄ができます。その際には手続きのなかで、正当な理由により相続の開始を知らなかったことを家庭裁判所に伝える必要があります。
2-2.相続放棄で必要になる書類
相続放棄をするとき、共通で必要となる書類は次のとおりです。
- 相続放棄の申述書
- 申述する人の戸籍謄本
- 被相続人の戸籍附票または住民票除票
- 被相続人の死亡日が記載されている戸籍謄本
ほかにも相続人の立場によって、提出が必要となる書類が出てきます。さらに費用として、収入印紙(800円分)と連絡用切手が必要です。実際に手続きするときは、弁護士や家庭裁判所にも確認をとってみてください。
2-3.相続放棄する本人からの申述のみ認められる
いくら他人が相続放棄を要求したところで、実際に申述できるのは本人のみです。他人が勝手に家庭裁判所で手続きをして、自分の知らない間に相続放棄が成立することはありません。
相続放棄にも、詐欺や強迫に基づく取消しが認められます。つまり他人から騙されて手続きしたり、脅されて申述したりしたときは意思表示が無効である旨を主張してください。そもそも詐欺や強迫で相続放棄が成立するケースはまれですが、念のため覚えておくとよいでしょう。
2-4.相続放棄するメリット
相続放棄を選択すると、以下のメリットを享受できます。
- 故人の借金の返済から逃れられる
- 相続トラブルでもめることがなくなる
- 遺産分割協議に参加する必要がなくなる
故人が多額の借金を抱えていると、これらを背負う羽目になるのが相続の怖い要素です。借金なく生活していたのに、突然返済に追われる毎日を過ごす恐れもあります。こういった悲劇に巻き込まれないためにも、相続放棄は知っておきたい制度の一つです。
さらに遺産分割協議でもめごとに巻き込まれたら、貴重な時間も奪われてしまうでしょう。以上から相続放棄は、ときに自分の財産や時間を守るうえで役立つ制度といえます。
2-5.相続放棄するデメリット
相続放棄するデメリットとして挙げられるのが、一度申述したら絶対的な効力が働くことです。先程も説明したとおり、家庭裁判所が申述を受理した場合は取消しできません。
たとえ自身に子がいたとしても、相続放棄は代襲相続の発生事由にはならない点に注意が必要です。仮に自分が相続放棄をしたところで、相続権が子に移るわけではありません。
さらに故人が多額の借金を抱えているとき、自分が相続放棄するとほかの相続人に負担がかかってしまいます。もちろん申述は本人の意思が最優先であるため、自分一人で手続きしても何の問題もありません。ただしほかの相続人や債権者には、できる限り相続放棄した旨の連絡を入れましょう。
3.相続放棄してくれと言われたあとの対応手順

ほかの相続人から「相続放棄してくれ」と言われたら、以下のような手順で対応を進めてください。
- その場で即答せず、時間をもらう
- なぜ相続放棄を求められているのか理由を確認する
- 遺産の内容を自分で確認する
- 相続放棄を含む最善の方法を検討する
順を追って解説していきます。
3-1.その場で即答せず、時間をもらう
ほかの相続人から相続放棄を求められたら、その場で絶対に同意せず、まずは「大事なことなので、一度持ち帰って考えます」と伝えて、考える時間をもらいましょう。
相続放棄は、全ての相続財産を放棄する、撤回不可能な手続きです。親族からの頼みであっても、その場で感情的に判断してしまうと、あとで取り返しのつかない後悔をする可能性があります。
焦らず、冷静に状況を分析するための時間を確保することが、ご自身の権利を守る第一歩です。
3-2.なぜ相続放棄を求められているのか理由を確認する
次に、相手が「なぜ」あなたに相続放棄をしてほしいのか、その理由や真意を冷静に確認することが大切です。理由によって、あなたの取るべき対応は大きく変わります。
「手続きを簡略化したい」「特定の人が家業や不動産を継ぐため」といった理由もあれば、あなたに知らせたくない「多額の借金」の存在を隠している可能性もゼロではありません。
相手の真意を把握することは、あなたが適切な判断を下すための重要な情報となります。
3-3.遺産の内容を自分で確認する
相手の話を鵜呑みにせず、必ずご自身の責任で「被相続人にどのようなプラスの財産があり、どれくらいの借金があるのか」という遺産の全容を調査・確認します。
相続財産目録の提示を求めたり、必要であれば預貯金の残高証明書や不動産の登記簿謄本などを取り寄せることも検討しましょう。もし多額の借金があるなら、相続放棄はあなたにとってメリットのある選択かもしれません。
正確な財産状況の把握が、有利・不利を判断するうえでの大前提となります。
3-4.相続放棄を含む最善の方法を検討する
遺産の内容を把握したうえで、ご自身の希望を叶えるための最善の方法が、本当に「相続放棄」なのかを慎重に検討します。
もし遺産は不要だが借金もない、という状況であれば、遺産分割協議でご自身の取り分をゼロにする「相続分の放棄」という、より柔軟な選択肢もあります。この方法なら、相続人としての地位は保たれます。
相続放棄は、あくまで最終手段の一つです。弁護士などの専門家にも相談し、ほかの方法と比較しながら、ご自身にとって最も有利な解決策を見つけましょう。
4.相続放棄してくれと言われたら必ず弁護士に相談しよう
ほかの相続人から「相続放棄してくれ」と言われても、基本的には応じてはいけません。しかし故人の財産状況をみた結果、相続しても大丈夫か不安に感じる人もいるはずです。自分一人で悩まず、必ず信頼できる弁護士に相談しましょう。
弁護士に相談すると、相続放棄すべきかの判断のみならず、相続手続きに協力してくれます。たとえば遺産分割協議でもめごとが発生しても、話し合いの間に入ることが可能です。
また弁護士であれば、裁判沙汰に発展したケースにおいても、訴訟手続きを代理で担当してもらえます。法律事務所によっては無料相談(制限あり)を設けているところもあるので、相性のよい弁護士を探してみてください。
5.まとめ
相続手続きにおいて、ほかの相続人から「相続放棄してくれ」と言われることもまれにあります。このような要求をされても、応じる必要はありません。故人の財産状況をチェックしつつ、自分の意思に基づいて判断してください。
しかし相続はルールも複雑であり、これらを初心者がすべて把握するのは困難です。一人で対応しようとすると、思わぬ損害を受ける可能性もあります。相続手続きに臨む際には、弁護士にしっかりと相談することをおすすめします。
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このコラムの監修者
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第二東京弁護士会所属