相続放棄前後で故人の借金や税金を支払ってしまったら?対処法はある?

親の財産の相続放棄を検討しているものの、すでに借金や税金を支払ってしまい困っている方もいるでしょう。故人の財産から支払いをすると、単純承認したものと見なされ、相続放棄が認められなくなるので注意が必要です。

この記事では、相続放棄前後に借金や税金等を支払ってしまった場合の対処法を解説します。ほかにも相続放棄が難しくなる例を取り上げるので、手続きしようと考えている方は最後まで読んでみてください。

このページの目次

1.相続放棄の手続き前に被相続人の借金・税金等を支払ってしまった場合はどうなる?

相続放棄の手続き前に、被相続人の借金や税金を支払ってはいけません。もし支払いの対応をしてしまうと、相続放棄ができなくなる恐れがあるためです。その理由について詳しく説明します。

1-1.法定単純承認したとみなされる

被相続人の借金や税金を支払う行為は、法定単純承認とみなされます。まずは、法定団準承認の定義とリスクを解説していきます。

1-1-1.法定単純承認とは?

法定単純承認とは、積極的に相続の承認をしていなくとも、一定の要件を満たしたときに単純承認したとみなす制度です。法定単純承認事由は、民法第921条に定められています。

  • 相続財産の全部または一部を処分した
  • 期限までに相続放棄や限定承認をしなかった
  • 相続財産の全部、一部を隠匿・消費した
  • 限定承認をしたとき、相続財産があることを知りながら目録に記載しなかった

借金や税金の支払いは、相続財産の処分に該当するため注意してください。

関連記事:相続放棄後にしてはいけないこととは?認められる行為も解説

1-1-2.法定単純承認のリスク

単純承認したとみなされると、相続放棄ができなくなってしまいます。そのため被相続人の資産だけではなく、負債も引き継がなければなりません。

仮に被相続人が多額の借金を抱えていた場合、単純承認した相続人は返済手続きに追われてしまいます。借金を負いたくないのであれば、法定単純承認事由を避け、相続放棄の申述をしたほうが賢明です。

1-2.法定単純承認により相続放棄できない場合はどうする?

法定単純承認により相続放棄ができないときは、法律の専門家である弁護士に相談することをおすすめします。やむを得ない事情があれば、特別に相続放棄が認められることもあるかもしれません。

もちろん原則として単純承認後は相続放棄ができないので、認められる可能性は極めて低いでしょう。とはいえ自分一人で悩むよりも、弁護士に相談したほうがリスクに対処しやすくなります。

2.被相続人の借金・税金を支払っても相続放棄できる可能性があるケース

故人の借金などを一部支払ってしまったあとでも、その支払いが「相続する意思があった」と見なされないような特定の状況下では、相続放棄が認められる可能性があります。

具体的には、以下3つのケースです。

  • 葬儀費用など社会通念上必要な支払いをした
  • 自分の財産から立て替えて支払った(故人の財産に手をつけていない)
  • 相続財産だと知らずに支払ってしまった

それぞれ解説します。

2-1.葬儀費用など社会通念上必要な支払いをした

故人の預金から、社会常識の範囲内で葬儀費用を支払った場合は、相続財産を処分したとは見なされず、相続放棄が認められる可能性が高いです。

葬儀費用は、相続財産から支払われるべき、道義的・社会的にみて必然性の高い出費だと考えられています。ただし、故人の身分や財産状況に比べて、あまりにも豪華で高額な葬儀をおこなった場合は、単純承認と判断されるリスクもあります。

「常識的な範囲での支払い」であることが重要です。

2-2.自分の財産から立て替えて支払った(故人の財産に手をつけていない)

故人の借金の返済を、故人の預金からではなく、あなた自身が保有している財産(ご自身の預金など)から立て替えて支払った場合、相続放棄は認められます。相続放棄ができなくなる「単純承認」とは、あくまで「相続財産」を処分した場合に成立するからです。

あなた自身の財産を使った場合は、相続財産に一切手をつけていないため、相続を承認したことにはなりません。ただし、あとからその立て替えた分を相続財産から回収しようとすると、問題が複雑になるため、注意が必要です。

2-3.相続財産だと知らずに支払ってしまった

故人の財産であるとは知らずに支払ってしまった場合は、事情を説明することで、相続放棄が認められる可能性があります。たとえば、故人名義のクレジットカードで少額の支払いをしてしまったといったケースなどです。

相続放棄ができなくなるのは、相続人が「相続する意思をもって」財産を処分した場合です。そのため、故人の財産だと知らなかった、その行為が法的に問題になるとは思わなかった、といった点を裁判所に主張することで、相続放棄が認められることがあります。

ただし、これは非常に専門的な判断を要するため、必ず弁護士に相談してください。

関連記事:相続財産を処分してしまったら相続放棄はできない?対処法はあるのか

3.被相続人の借金・税金の支払い行為が「保存行為」と認められるかどうかが鍵

故人の借金などを支払ったあとでも相続放棄が認められるかどうかの鍵は、その支払い行為が、財産の価値を維持するための「保存行為」と判断されるか、財産を処分する「単純承認」と判断されるかにかかっています。

たとえば、建物の修繕費や期限が迫った税金の支払いなどは、財産の価値を維持するための保存行為と認められやすいです。

しかし、この判断は非常に専門的で、知識がないまま支払いをおこなうと、相続放棄が認められなくなることがあります。個別の事情に大きく左右されるため、自己判断は禁物です。必ず、弁護士などの専門家に相談し、法的な見解を求めるようにしてください。

4.相続放棄の手続き後に被相続人の借金・税金等を支払ってしまった場合はどうなる?

相続放棄の手続き後に被相続人の借金・税金等を支払ってしまった場合、どうなるのでしょうか?「支払ってしまったお金」に焦点をあてて、詳しく解説していきます。

4-1.支払ったお金は返金されないのが基本

相続放棄後に支払ったお金は、基本的には返金されないと考えてください。民法では、債務を消滅する方法の一つに第三者弁済を想定しているためです。

第三者弁済とは、本来債務を負う義務のない人が代わりに返済対応をすることです。有効な弁済となるため、たとえ相続放棄した人が返金を求めても、債権者は応じる必要がありません。

債権者からすれば、踏み倒される恐れのあるお金が返ってきた状況です。返金に応じる人は、ほとんどいないでしょう。

4-2.支払ったお金が戻ってくる場合もある

相続放棄後にお金を支払った場合でも、以下の条件に該当すれば戻ってくることもあります。

  • 相続財産から税金や公共料金を支払ったケース
  • 騙されたり脅されたりして支払いに応じたケース
  • 他の相続人に対して「立て替えた分」として請求するケース

それぞれのケースについて細かくみていきます。

4-2-1.相続財産から税金や公共料金を支払ったケース

相続財産から税金や公共料金を支払った場合、市町村役場に連絡をすれば返金されることもあります。ただし、必ず返金が認められるとは限りません。

一方で固定資産税については、通常1月1日か4月1日のいずれかが起算点となります。この起算点をまたぐと納税義務が発生するので、注意してください。

4-2-2.騙されたり脅されたりして支払いに応じたケース

騙されたり脅されたりして支払いに応じたケースも、返金される可能性があります。民法第96条1項には、詐欺や強迫による意思表示は取り消せると規定されているためです。

ただしこちらの主張が認められるには、詐欺や強迫があったという証拠を用意しないといけません。

4-2-3.他の相続人に対して「立て替え分」として請求するケース

相続放棄の申述をした人は、被相続人の借金や税金を支払う必要がありません。つまり本来は、ほかの相続人が支払うべき分を立て替えている状態です。

したがって他の相続人に対して、求償権を行使する形で返還請求ができます。とはいえ相続人も返金を渋る可能性が高く、トラブルに発展するケースもあるため注意してください。

5.相続財産から支払ってしまったあとにすぐやるべき3つのこと

相続財産から借金や税金を支払ってしまったら、やるべきことは以下の3点です。

  • それ以上は一切の支払い・財産の処分をしない
  • 支払いに関する書類を全て保管する
  • すぐに弁護士や司法書士などの専門家に相談する

返金される可能性が高まるように、これらを実行に移してみましょう。

5-1.それ以上は一切の支払い・財産の処分をしない

まず、故人の財産には、預貯金も含めて、一切手をつけないでください。ほかの債権者への支払いや遺品の整理・売却なども、絶対に中断します。

追加で支払いなどの行為を重ねてしまうと、あなたが「相続する意思を明確に持っている」と、裁判所に判断されるリスクが、ますます高まってしまいます。一度おこなってしまった行為の影響を、最小限に食い止めることが重要です。

5-2.支払いに関する書類を全て保管する

相続財産からお金を支払った場合、受け取った領収書を全て保管しましょう。返金を請求しようとしても、証拠がなければ認められる確率が低くなってしまいます。

裁判に発展したとき、領収書などの証拠があると訴訟も有利に進みやすくなるでしょう。

5-3.すぐに弁護士や司法書士などの専門家に相談する

支払いをしてしまったら、なるべく早めに弁護士や司法書士などの専門家に相談してください。返金を実現させるべく、さまざまな解決法を提案してくれます。

ただし司法書士は、弁護士とは違って請求金額が140万円以下の訴訟しか代理人になれません。費用は司法書士のほうが安くなる傾向があるものの、弁護士と比べて制限も多いので、どちらに依頼するかは慎重に選びましょう。

6.相続放棄前後に被相続人の借金・税金等の支払い請求が来たときの対処法

相続放棄の手続きを進めている最中に、被相続人の借金や税金等の支払い請求が来ることもあるでしょう。ここでは、請求が来たときの対処法を、相続放棄前後に分けて詳しく解説します。

6-1.相続放棄前の対処法

相続放棄前の対処法としては、支払いの請求が来ても絶対に払わないことを意識してください。万が一、被相続人の財産から支払ってしまうと、相続放棄自体が認められなくなる恐れがあるためです。

どうしても返済に応じたいのであれば、自分のポケットマネーで対応するとよいでしょう。しかし相続放棄の申述が受理されたら、そもそも借金の対応をする義務がなくなるため、原則は絶対に支払わないことをおすすめします。

関連記事:相続放棄後にしてはいけないこととは?認められる行為も解説

6-2.相続放棄後の対処法

すでに相続放棄が完了しているのであれば、たとえ借金の催促が来ても、「相続放棄申述受理通知書」を提示するだけで支払いを拒否できます。この書類は、申述が完了したあとに家庭裁判所から送付されるため、紛失しないように保管しましょう。

仮に紛失したときは、手数料を支払ったうえで「相続放棄申述受理証明書」を入手する必要があります。これらの書類を提示しているにもかかわらず、相手が引かない場合は弁護士に相談したほうが賢明です。

7.被相続人の借金・税金の支払い以外で相続放棄が難しくなる例

被相続人の借金や税金の支払い以外でも、相続放棄が難しくなるケースがあります。とくに注意しなければならない例として、以下の5つを押さえてください。

  • 故人のクレジットカードの支払いをした
  • 故人の携帯電話料金や家賃などを支払った
  • 遺産の売却や譲渡をした
  • 高価なものを形見分けした
  • 遺産分割協議に参加した

これらの行為と相続放棄の関係について詳しく解説します。

7-1.故人のクレジットカードの支払いをした

故人のクレジットカードを支払った場合、基本的には相続放棄が認められません。支払期日の過ぎている滞納分や分割払いの費用があっても、相続放棄を検討している人は払わないようにしましょう。

とくにリボ払いで決済している場合は、最終的な支払額が大きくなるケースもあるため、関与しないことをおすすめします。

7-2.故人の携帯電話料金や家賃などを支払った

故人の携帯電話料金や家賃などを支払ったときも、相続放棄ができなくなる要因の一つです。携帯会社や大家、不動産会社から連絡が来ても、相続放棄をする人は応じる必要がありません。

解約や名義変更についても、相続放棄に悪影響を及ぼす可能性があるため、対応しないほうが望ましいでしょう。

関連記事:故人の携帯を解約してしまったら相続放棄はできなくなる?

7-3.遺産の売却や譲渡をした

遺産の売却や譲渡をした場合、原則として相続放棄は認められません。これらの行為も、一般的に相続財産の処分とみなされてしまうためです。

したがって、故人の乗っていた車や不動産を売却するようなことはしないでください。家具や家電の遺品整理についても、積極的に参加することは避けましょう。

7-4.高価なものを形見分けした

相続放棄を考えているのであれば、高価なものを形見分けする行為も避けたほうが賢明です。故人と撮影した写真など財産価値の付かないものは、形見分けしても基本的には財産の処分とはみなされません。

しかし宝石や高級アクセサリーを受け取ってしまうと、相続財産に手を付けたと判断される可能性が高まります。自分の中では財産的価値がないと思っていても、実は高い値段が付く遺品もあるため注意してください。

7-5.遺産分割協議に参加した

相続放棄を選んだ人は、遺産分割協議には参加できません。遺産分割協議は、故人の財産をどのように分割するかを決めるための話し合いです。

話し合いに参加し、遺産分割協議書に署名捺印をしてしまうと、相続財産を引き継ぐ意思があるとみなされてしまいます。ほかの相続人から参加するように連絡が来るケースもありますが、相続放棄を選ぶのであればきっぱりと断るようにしてください。

8.弁護士に相続放棄の相談をすべき理由と依頼するメリット

相続放棄をご検討中の方は、なるべく早めに弁護士に依頼すべきです。その理由と、弁護士に依頼するメリットを以下の3つ解説します。

  • 家庭裁判所への複雑な事情説明を任せられる
  • 債権者への対応窓口になってもらえる
  • 相続放棄が認められなかった場合の次善策(債務整理など)も相談できる

一つずつ見ていきましょう。

8-1.家庭裁判所への複雑な事情説明を任せられる

弁護士に依頼することで、家庭裁判所に対して、相続放棄を認めてもらうべき正当な理由があることを法的に説得力のある形で主張してもらうことが可能です。

期限後の相続放棄などでは、「事情説明書」という書類の提出が求められます。弁護士は、過去の判例などにもとづき、あなたの行為が単純承認にはあたらないことを、論理的に構成して主張してくれます。この専門的な書面の作成と主張が、相続放棄が受理される可能性を大きく高めます。

8-2.債権者への対応窓口になってもらえる

弁護士に依頼すると、各債権者に対してすぐに「受任通知」という書面が送付され、それ以降はあなたに直接督促の電話や手紙が来ることはなくなります。貸金業法では、弁護士からの受任通知を受け取ったあと、正当な理由なく債務者本人に直接連絡してはならない、と定められているためです。

全ての連絡窓口が弁護士になるため、あなたは精神的なプレッシャーから解放されます。借金問題の解決には、まず落ち着いた生活を取り戻すことが大切です。

8-3.相続放棄が認められなかった場合の次善策(債務整理など)も相談できる

万が一、家庭裁判所に相続放棄が認められなかった場合でも、弁護士に依頼していれば、すぐに次の最善策である「債務整理」の手続きに移行できます。

相続放棄を専門とする弁護士の多くは、自己破産や個人再生といった、債務整理手続きの専門家でもあります。もし相続放棄が認められず、借金を背負うことが確定しても、そのまま同じ弁護士が、あなたの状況に合った債務整理の方法を提案し、手続きを進めてくれるためおすすめです。

最後の最後まで、あなたの生活再建をサポートしてくれるのが、弁護士という心強い味方です。

9.まとめ

相続放棄を検討しているにもかかわらず、故人の借金や税金を相続財産から支払ってしまうと、基本的に相続放棄の申述は認められなくなります。また、ご自身のポケットマネーで対応した場合、相続放棄をは認められるものの、原則として返金されないので注意してください。

相続放棄を選択するのであれば、故人の借金や税金の支払いに関与する必要はありません。ほかの相続人や相続財産管理人に任せつつ、自身は家庭裁判所への申述手続きを進めるようにしましょう。

弁護士法人池袋吉田総合法律事務所では、相続に関する無料相談を受け付けています。相続に関する問題でお困りの方は、ぜひ当事務所までご相談ください。

このコラムの監修者

弁護士法人池袋吉田総合法律事務所は、相続全般、遺産分割、遺留分、相続放棄、生前対策、遺言作成、事業承継、
相続税など、法律のプロとして幅広い案件を取り扱っています。
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弁護士 吉田 公紀
弁護士 吉田 公紀
第二東京弁護士会所属

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