
財産を渡したくない相続人がおり、遺言で分配方法を決めたいと考えている人もいるでしょう。この場合において、「遺留分を認めない」と遺言書に残せるでしょうか。
この記事では、遺留分と遺言の関係に加え、相続人とトラブルにならないための対策法を解説します。財産をどのように分配するか悩んでいる人は、ぜひ参考にしてください。
このページの目次
1.遺留分の制度内容
自分の財産を渡したくないのであれば、まずは遺留分について理解する必要があります。遺留分がどのような制度であるかを解説します。
1-1.兄弟姉妹以外が受け取れる最低限の財産
遺留分とは相続財産の中で、兄弟姉妹以外が受け取れる最低限の取得分です。民法第900条には相続分が定められていますが、必ずしも同規定を守る必要はありません。遺言や遺産分割協議により、家族間で自由に決めてよいとされています。
しかし財産を全く譲渡されなかった相続人は、「自分にも権利があるのに不公平だ」と感じるでしょう。そのため遺留分の制度を用意し、最低限の取得分を獲得できるように設定されています。
一方で被相続人の兄弟姉妹は、遺留分を請求できません。配偶者や子、直系尊属と比べて被相続人との関係性が薄いからです。
1-2.具体的な割合と計算方法
遺留分の割合は、法定相続分の2分の1となっています。主な例を表でまとめました。
相続人 | 各相続人の遺留分 |
---|---|
配偶者 | 2分の1 |
子ども(1人) | 2分の1 |
直系尊属(1人) | 3分の1 |
配偶者と子ども(1人) | 4分の1ずつ |
配偶者と子ども(2人) | 配偶者:4分の1、子ども:8分の1 |
配偶者と直系尊属(1人) | 配偶者:3分の1、直系尊属(6分の1) |
例えば5,000万円の財産を、配偶者と子ども2人で相続するとします。このケースにおける各相続人の遺留分の計算方法は以下のとおりです。
- 配偶者:5,000万円×1/4=1,250万円
- 子ども(1人あたり):5,000万円×1/8=625万円
このように、相続人が請求できる最低限の相続財産を把握しておきましょう。
2.「遺留分を認めない」の記載の有効性

相続財産の譲渡方法を考える中で、遺留分さえも渡したくないと思う相続人もいるでしょう。仮に「遺留分を認めない」と遺言書に残したとき、法的に有効となるかを解説します。
2-1.相続人の遺留分請求には対抗できない
原則として「遺留分を認めない」と遺言書に残しても、相続人の遺留分請求には対抗できません。遺留分の制度を設けている理由には、相続人の生活を支えるといった側面もあります。
したがって遺言で一切財産を渡さない旨が書かれていても、その記載は優先されません。あらかじめ遺留分が請求されることを想定しておき、他の対策を考える必要があります。
2-2.遺言全体の効力が失われるわけではない
「遺留分を認めない」と記載されていても、遺言全体の効力が失われるわけではありません。遺留分侵害額請求権に対抗できるわけではないものの、遺言書の記載は基本的に遺言者の自由と考えられているためです。
そのため他の相続人に対する分配方法の指示は、問題なく法的効力が働きます。あくまで相続人から遺留分の請求をされたら、遺言に優先するのだと押さえてください。
2-3.付言事項としての記載はできる
遺留分を渡したくないと考えている人は、遺言書の付言事項として記載できます。付言事項とは、遺言者の要望を自由に記載できる事項です。
とはいえ、付言事項はあくまで遺言者の気持ちを表明したものにすぎません。遺留分侵害額請求権を行使された場合、その相手には対抗できないので注意が必要です。
3.相続人が遺留分を請求できなくなる条件
特定の相続人に遺留分を請求できなくするのは、遺言だけでは足りません。遺留分の請求を防ぐには、民法の要件や生前贈与等の手続きといった条件が必要です。
3-1.相続放棄もしくは遺留分放棄をする
特定の相続人からの遺留分請求を防ぐには、相続放棄もしくは遺留分放棄をさせる方法があります。相続放棄・遺留分放棄双方とも、相続人が自分の意思でする手続きです。したがって第三者が勝手に放棄の手続きをするのは許されません。
相続放棄が認められるには、相続人本人による家庭裁判所への申述が必要です。一方で遺留分放棄の場合は、家庭裁判所から許可をもらわないといけません。本人から同意を得るだけではなく、家庭裁判所での手続きも必要になることを押さえてください。
3-2.相続欠格事由に当てはまっている
相続欠格事由に当てはまる相続人は、遺留分侵害額請求権が認められなくなります。相続欠格事由に該当する事項は、以下のとおりです。
- 故意に被相続人を死亡させた者
- 被相続人が殺害されたのに告発しなかった者(犯人が配偶者、直系血族の場合を除く)
- 詐欺や強迫で遺言の成立などを妨げた者
- 遺言書の偽造、変造をした者
これらを確認できるのは、残された相続人にはなります。もしほかの相続人に遺留分を渡したくないのであれば、該当の相続人がこれらの事由に該当していないかをチェックしてみましょう。
3-3.被相続人が該当の相続人を廃除した
廃除とは被相続人の要望で相続人の権利を奪う手段であり、生前廃除と遺言廃除の2種類に分けられます。
生前廃除は、本人が生前に「推定相続人廃除の審判申立書」を家庭裁判所に提出します。廃除の審判が下りたら、市区町村役場へ10日以内に「推定相続人廃除届」を提出しないといけません。一方で、遺言廃除は、遺言執行者が本人に代わって手続きします。
廃除が認められるには、著しい非行や虐待などの要件が必要です。当該要件に満たしているかどうかを、相手も交えて家庭裁判所で互いに主張し合います。
3-4.すでに生前贈与を受けている
被相続人が、「遺留分を渡したくない相続人以外」の相続人に生前贈与して、遺留分の請求を防ぐ方法もあります。生前贈与は特別受益とみなされ、遺留分からの控除が可能です。
一方で次に該当する生前贈与は、算定の基礎となる遺産額に含まれてしまいます。
- 相続人以外の贈与…1年以内
- 相続人への贈与…10年以内
ほかにも受贈者および贈与者が遺留分を侵害すると知っていて贈与した場合も、同様に請求が認められます。全額の請求を防ぐよりかは、遺留分を減少させるといった目的で早いうちから検討してみるとよいでしょう。
3-5.生命保険金を活用している
生命保険金の活用も、遺留分対策の一つです。生命保険金(死亡保険金)については、原則として遺留分には含まれません。したがって遺産を多く渡したい相続人を受取人にすれば、自ずと他の相続人は遺留分侵害額請求権を行使できなくなります。
しかし例外的に、生命保険金が遺留分に含まれるケースもあります。
- 受取人が被相続人自身になっていた
- 他の相続人が著しく不公平になる
著しい不公平にあたるかは生命保険金と遺産総額の比率にもよるため、裁判で争われる可能性も高い点には注意してください。
4.被相続人の望みを叶える遺言書の作り方

被相続人の要望を叶えるには、遺言書の作り方も押さえなければなりません。遺言書の種類と併せて、どのような方法が望ましいのかを解説しましょう。
4-1.なるべく公正証書遺言で作成する
遺言には、大きく分けて自筆証書遺言、公正証書遺言、秘密証書遺言の3つがあります。その中で特におすすめしたいのが、公正証書遺言です。
公正証書遺言書は、まず公証役場で作成します。その際には、証人2名を用意しなければなりません。未成年者や推定相続人、直系尊属は証人として選べないので注意してください。
公証人(士業や金融機関等)と打ち合わせをしたら、公証役場へ訪問します。印鑑証明書や戸籍謄本、住民票といった添付書類も用意しないといけないため、手続き前に確認を取りましょう。
4-2.財産の内容は具体的に示す
自身の望みを叶えるには、財産目録で財産の内容を具体的に示したほうが賢明です。とはいえ公正証書遺言の場合、資料さえ揃えておけば公証人が代わりに財産目録を作成してくれます。
自筆証書遺言を作成するときは、被相続人自身で作成しなければなりません。ただし平成31年から自筆ではなく、ワープロ等を使用してもよいとされています。
4-3.信頼の置ける家族と相談する
遺言を残す前に、あらかじめ信頼の置ける家族と相談する方法もあります。家族会議を開いておくと、財産の状況や相続税の対策を相続人と共有できます。葬儀やお墓などの相談をするうえでも有効です。
しかしケースによっては、家族に相談したために余計な対立を招く恐れもあります。不安であれば、家族と話し合うことに関して、弁護士から判断を仰ぐのもよいでしょう。
4-4.弁護士等の専門家に相談する
遺言書を作成する際には、できる限り弁護士へ相談するのをおすすめします。スムーズに作成が進むだけではなく、どの形式を選ぶべきか教えてくれるのがメリットです。
一般的には公正証書遺言が望ましいですが、健康上の理由により自筆証書遺言がよい場合もあります(ケガで公証役場に行けないなど)。他にも家族間で起こりうる相続トラブルについて、法的な観点で解決の糸口を見つけられる点も強みです。
5.まとめ
被相続人が「遺留分を認めない」と遺言書に書くことは、特に禁止されていません。ただしそのように記載したところで、相続人からの遺留分侵害額請求は有効となります。
要望として記す分には問題ないものの、実際は有効な手段とはいえません。もし遺留分も渡したくないのであれば、その他の方法を考えたほうが望ましいでしょう。
とはいえ民法で保証されている遺留分を、すべて奪うのは簡単ではありません。自身の要望をできる限り叶えるには、弁護士に一度相談することをおすすめします。
弁護士法人池袋吉田総合法律事務所では、相続に関する無料相談を受け付けています。相続に関する問題でお困りの方は、ぜひ当事務所までご相談ください。