債権は相続の対象となるのか?手続きする際の注意点を解説

民法にも規定されており、日常生活でも頻繁に発生しうる権利の一つが「債権」です。もし自身の親が債権を有している間に亡くなった場合、その権利を引き継げるかが気になる人もいるでしょう。

そこでこの記事では、債権が相続の対象になるかを詳しく解説していきます。今後、相続が発生しそうな人はぜひ参考にしてください。

1.そもそも債権とは?

債権とは、他人に対して特定の行為を請求できる権利です。身近な例としては、売買契約が挙げられます。

皆さんがお店で商品を購入した場合、代金を支払わないといけません。お店からすると、「代金を払ってもらう」といった債権を有しています。一方で消費者側の「商品を引き渡してもらう」といった権利も債権の一つです。

ほかにもお金を友人に貸したとき、特別な決め事がなければ返してもらうように請求できます。このように債権は、常日頃から何気なく発生しているのがポイントです。 

2.債権と相続の関係

たとえば自身の父親が友人にお金を貸し、返済してもらう前に亡くなったケースを考えています。

貸した本人は死亡しているため、返済を請求できません。この場合において、相続人が代わりに請求できるのでしょうか。

2-1.債権も相続の対象になる

結論から述べると、原則として債権も相続の対象になります。上記のケースにおいて自身が権利を相続すれば、父親に代わって返済の請求が可能です。

貸しているお金も、被相続人の財産の一つです。したがって被相続人が生存中に回収できなかった分は、財産を引き継ぐ相続人が代わって請求できると考えられています。

2-2.相続が認められない債権

一般的には債権も相続が可能ですが、すべてに認められているわけではありません。相続できない債権として挙げられるのが、一身専属権に基づくものです。

一身専属権とは、特定の個人のみが持つ権利を指します。その権利の代表例にあたるのが生活保護費であり、こちらは被相続人の代わりに自治体へ請求できません。

ほかにも養育費(将来分)や年金なども、一身専属権の一つとされています。一方で過去の未払い分については、金額も具体的に確定しているとみなされます。要するに通常の金銭債務と変わらないので、未払い分に限っては請求が可能です。

3.可分債権と不可分債権について

債権には大きく分けて可分債権と不可分債権があります。可分債権は分割できる債権のことで、不可分債権は分割できない債権のことです。

相続では両者の違いで取り扱いが異なるため、それぞれを区別して覚えないといけません。可分債権・不可分債権の具体例に加え、どのように相続されるかを解説します。

3-1.相続後は原則共有となる

相続財産は、民法第898条の規定に則って相続人らの共有となります。共有となった財産を相続人の持分に従い、遺産分割するのが一般的な流れです。

ただし民法899条により、被相続人の権利義務は相続人全員が法定相続分を承継できるとされています。こちらの対象は可分債権であり、遺産分割を経ずに権利義務を引き継ぎます。一方で不可分債権の場合は、遺産分割を経てはじめて相続が成立するのがポイントです。

3-2.可分債権となるもの

可分債権に該当する種類は、大きく分けて以下の3つです。

  • 金銭債権
  • 事業や不動産の収入
  • 損害賠償請求権

具体的なルールも踏まえて解説していきます。

3-2-1.金銭債権

可分債権の一般例として挙げられるのが金銭債権です。被相続人が知人にお金を貸していたケースが該当します。

上述したとおり可分債権である金銭債権は、遺産分割せずとも相続人に承継されるのがポイントです。たとえば父親が知人に100万円貸して死亡し、子2人で相続したら50万円ずつ返還請求できます。

3-2-2.事業や不動産における収入

被相続人が事業や不動産経営で収入を得ていた場合、これらの金銭も可分債権とみなされます。

不動産オーナーの父親に400万円の賃料収入があったと仮定します。さらに相続人は、母親(配偶者)と子ども2人と仮定します。それぞれの相続分は、母親(2分の1)と子ども(1人あたり4分の1)です。したがって賃料収入のうち母親は200万円、子どもは100万円ずつ相続が認められます。

3-2-3.損害賠償請求権

損害賠償請求権は、特別な意思表示がなければ金銭による補償を原則としています。つまり可分債権の一つであり、こちらも各相続人による法定相続分の請求が可能です。

とはいえ損害賠償額は、すぐに確定できるものではありません。加害者とお互いに交渉し、話がまとまらなかったら最終手段として民事訴訟で争ったうえで決まります。このように可分債権ではあるものの、請求できるまでは時間と労力を要することを押さえてください。

3-3.不可分債権となるもの

不可分債権の例として、金融機関の預貯金や有価証券等が挙げられます。これらの財産について、遺産分割協議がなされる前に手を付けるのは許されません。

3-3-1.金融機関の預貯金

被相続人が有する預貯金は、金銭債権と異なり不可分債権に位置づけられます。しかし平成28年の最高裁判例が出されるまでは、可分債権と考えられていました。考えが改められた理由は、相続人間で不公平が生じやすくなるためです。

仮に可分債権とみなすと、相続人らが法定相続分に従って各自で引き落としできます。一見公平のように思えますが、相続人の中には被相続人が生きている間に多額の贈与を受けている人もいるかもしれません。

預貯金は不動産や株とは異なり、たいていの人が持つ財産です。つまり預貯金が遺産分割の対象でなければ、生前贈与を受けた人が結果的に多くの利益を有してしまうことになります。こうした不公平をなくすべく、預貯金は遺産分割が必要な不可分債権と改められました。

3-3-2.有価証券(株・投資信託など)

株や投資信託といった有価証券も、不可分債権に数えられる財産の一つです。

仮に200株を保有している父親が死亡し、子ども2人で相続したとしましょう。この場合、2人は株式を「準共有」しているとみなされます。準共有とは所有権以外の権利を共有する状態のことです。

2人は100株ずつではなく、あくまで200株全体を共有しています。1人が100株分を勝手に売却するといった行為は認められません。

4.債権を相続する際の注意点

債権の相続が認められるには、いくつかの注意点を守らないといけません。ここでは特にトラブルになりやすいポイントを解説します。

4-1.債権には消滅時効が存在する

まず注意しなければならない点は、債権には2種類の消滅時効が存在することです。

起算点期間
権利行使できることを知ったとき5年
権利行使できるとき10年

これらの期間内に請求しないと、時効により債権が消えてしまいます。改正民法により債権のほとんどが上記の期間を採用していますが、損害賠償請求権は損害と加害者を把握してから3年、不法行為があったときから20年です。

内容証明郵便を送れば、時効の完成が6カ月間猶予する点も覚えておきましょう。

4-2.相続放棄をした相続人は債権回収ができなくなる

可分債権の相続人は法定相続分を回収できますが、相続放棄をした人は対象外となります。相続放棄はすべての権利義務を手放したと解釈されるためです。

絶対的な効力が働くため、あとからの取り消しもできません。手続きへ移る前に、財産の状況をよく確認して慎重に判断しましょう。

4-3.遺言があったらその内容に従う

被相続人が亡くなる前に、あらかじめ債権について遺言を残している可能性もあります。遺言は原則として優先しなければならないので、その内容に従ってください。

ただし現行民法では、法定相続分を超える部分についての権利を主張するには対抗要件を備えなければなりません。債権における対抗要件は、遺言の内容を明らかにしたうえで、債務者に通知する方法でもよいとされています。

4-4.債務者が死亡したら債権回収できないこともある

債権を相続しても、債務者が死亡したら金銭等を回収できなくなる可能性もあります。主な例として挙げられるのが、債務者側の相続人が相続放棄を選択したときです。

ただし債務者の遺族側は、全員が相続放棄する際には相続財産管理人を選任します。回収するには、相続財産管理人と交渉しなければなりません。

5.債権回収をしやすくする相続方法

借金等を回収できなければ、相続人の財産においても損失となってしまいます。こうした損失を防ぐためにも、債権回収をしやすくする相続方法について解説しましょう。

5-1.代表者1人が債権を相続する

効率よく債権回収するには代表者1人に相続させる、もしくは取り立てを任せるようにしましょう。相続人全員で債務者に返還請求を迫ると、相手も混乱してしまうためです。

またマンツーマンで話し合ったほうが、返済の具体的なプランも立てやすくなります。どうしても遺産分割協議の時点で全員に相続させたいのであれば、代表者1人に委任状を渡すとよいでしょう。

5-2.未成年者には相続させない

未成年者に相続させないことも、債権回収をしやすくするポイントの一つです。未成年者には原則として単独行為が認められず、遺産分割協議は法定代理人が参加する形となります。

しかし法定代理人もまた相続人に含まれる場合、代理として遺産分割協議に参加できません。法定代理人が有利になり、未成年者にとって不利益となる利益相反取引に該当するためです。

このように現実的には未成年者が債権回収するのは難しいため、はじめから相続させないといった選択肢も検討しましょう。

6.債権回収および相続は弁護士に相談

相続財産に債権も含まれていると、債務者とのやり取りもあるためトラブルが生じやすくなります。交渉および訴訟への発展を考慮した場合、はじめから弁護士に相談したほうが賢明です。

弁護士に相談すれば、相続放棄の手続きや債権回収の準備を代わりに対応してもらえます。債権回収の成功確率を高めるためにも、特に信頼できると感じた法律事務所に依頼してください。

7.まとめ

被相続人が債権者であれば、その借金等を回収する行為も相続人に認められている権利の一つです。生前にどのような取引をしていたか、財産調査で詳しく調べなければなりません。

債権にも可分債権や不可分債権といった種類があり、権利義務の引き継ぎ方も異なります。可分債権と不可分債権の特徴を理解し、相続時に揉め事が生じないよう注意してください。

また相続の知識に自信があっても、弁護士への依頼を優先的に考えることも大切です。どのようなトラブルが発生するかわからないので、なるべくリスクを抑えるようにしましょう。

弁護士法人池袋吉田総合法律事務所では、相続に関する無料相談を受け付けています。相続でお困りの方は、ぜひ当事務所までご相談ください。

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