【弁護士監修】相続財産に借金が含まれる場合の対処法や手続きの流れ

被相続人の財産を引き継ぐ中で、特にトラブルが生じやすいのが借金を抱えていた場合です。借金を相続してしまうと、債権者からの返済請求に応じなければなりません。

こういった事態を防ぐべく、この記事では相続財産に借金があったときの対処法を解説します。余計な返済に追われたくなく、自身の生活を守りたい人は参考にしてください。

1.被相続人の借金も相続の対象になる

相続の対象になるのは、資産のようなプラスの財産だけではありません。借金などの負債(マイナスの財産)もまた相続の対象になってしまいます。

借金の存在に気付かず財産を相続すると、多額の返済に追われる可能性もあります。こうした事態を防ぐためにも、被相続人の収支の状況を細かく調査しなければなりません。

2.【相続の種類別】借金が残されていた場合の手続きの方法

まずは被相続人の資産・負債に関係なく、相続には3つの手続きがあることを押さえなければなりません。

  • 単純承認
  • 限定承認
  • 相続放棄

相続が発生したときは、その後の進め方を3つの中からいずれかを選ぶ必要があります。それぞれの具体的なルールについて紹介しましょう。

2-1.単純承認

単純承認とは、資産・負債のすべてを引き継ぐ方法です。相続人のうち、誰がどのくらい引き継ぐかは原則として民法上のルールに基づきます。

法定相続人(被相続人から見た)法定相続分
配偶者および子(第一順位)配偶者:1/2、子:1/2
配偶者および直系尊属(第二順位)配偶者:2/3、直系尊属:1/3
配偶者および兄弟姉妹(第三順位)配偶者:3/4、兄弟姉妹:1/4

一方で遺産分割協議により、相続人らで取り分を自由に決めることも可能です。

2-2.限定承認

限定承認とは、資産を限度に負債も引き継ぐ方法のことです。仮に資産が200万円、負債が1,000万円であれば相続の対象になる負債は200万円のみとなります。借金のほうが多いことは把握していながらも、後日プラスの資産も判明しそうな場合に有効です。

2-2-1.限定承認の注意点

限定承認の手続きをするには、相続人全員の同意を得なければなりません。また財産の評価が難しい場合、手続きに時間がかかるといったデメリットもあります。加えて3カ月以内に手続きを済ませないといけないので注意しましょう。

2-3.相続放棄

相続放棄は、資産と負債のすべてを引き継がない(相続する権利を放棄する)方法です。こちらは単独の手続きとみなされるため、限定承認とは異なり他の相続人の同意を得る必要はありません。

2-3-1.相続放棄の注意点

相続放棄を選択すると被相続人が抱えていた負債の返済義務が消滅し、債権者からの請求に応じる必要もなくなります。絶対的な効力が働くため、一度手続きが完了したら取り消しは認められません。

また相続放棄は、3カ月以内に手続きを済ませる必要があります。正当な理由がない限り、期間経過後に申述できないので注意しましょう。

関連記事:相続財産に借金があるのを知らなかったときに相続放棄できる条件とは?

3.相続放棄の手続きの流れ

被相続人が多額の借金を抱えており、返済するのが難しいのであれば相続放棄をするのが一般的です。どのように手続きを進めればよいかを解説します。

3-1.遺品整理はおこなわない

まず大前提として多額の借金がすでに判明しており、相続放棄したい人は遺品整理をしてはいけません。単純承認したとみなされ、相続放棄ができなくなってしまうためです。

ただし借金の存在に気付かず、遺品整理してしまうケースもあるでしょう。借金を知らなかったことに正当な理由があれば、例外的に相続放棄が認められることもあります。遺品整理と相続放棄の関係は複雑であるため、プロの弁護士に相談するのをおすすめします。

3-2.被相続人の財産を調査する

財産調査においては、被相続人の借金額を以下の2つの方法から明らかにしましょう。

  • 契約書や借用証書がないかを調べる
  • 信用機関に情報開示請求をする

各方法ごとに、チェックすべきポイントをまとめます。

3-2-1.自宅に契約書等がないかを調べる

財産調査の基本は、自宅に契約書や借用証書がないかを調べることです。被相続人が大事な荷物を収納していた場所や郵便受けを細かく確認してください。

返済状況を調べるには、被相続人の預金通帳の入出金をチェックするとよいでしょう。いくらか返済していたら、通帳からその形跡を把握できます。

また被相続人が何らかのお金を滞納していた場合、督促状が届いていることもあります。

3-2-2.信用機関に情報開示を求める

金融機関から借金しているのであれば、信用機関に情報開示を求めるのも調査方法の一つです。信用機関は、大きく次の種類に分けられます。

信用機関の名称管理している情報
全国銀行個人信用情報センター(KSC)銀行のローン、クレジットカード
株式会社日本信用情報機構(JICC)消費者金融から借りている金銭等
株式会社シー・アイ・シー(CIC)消費者ローン

情報開示を求める際には、照会手数料も支払わないといけません。窓口・郵送・インターネットで金額や照会方法も異なるので、機関別に確認してください。

3-3.金銭および必要書類を準備する

資産と負債の状況を確認できたら、家庭裁判所で相続放棄の手続きをスタートします。申述するには、次の書類を準備してください。

  • 相続放棄申述書(家庭裁判所の公式サイトよりダウンロード可)
  • 被相続人の住民票除票または戸籍附票
  • 申述人の戸籍謄本
  • 被相続人の死亡に関する記載がある戸籍謄本(申述人が配偶者・子)
  • 被相続人の出生〜死亡の記載がある戸籍謄本(申述人が直系尊属・兄弟姉妹)
  • 収入印紙(800円/1人)
  • 郵便切手

上記以外の書類が必要になる可能性もあるため、弁護士や家庭裁判所に必ず確認してください。

3-4.家庭裁判所に申述書を提出する

申述書等の必要書類が揃ったら、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に提出しましょう。主に窓口での提出や郵送といった方法があります。

弁護士に依頼すれば、申述書の提出まで代わりに対応してもらえます。仕事などで忙しい場合は、弁護士による代理申請も検討するとよいでしょう。

3-5.照会書を家庭裁判所に再送する

申述内容に家庭裁判所側が疑問を感じた場合、照会書が送付されます。照会書で確認したい内容は、本人に相続放棄の意思があるかどうかです。

内容に問題がなければ「自分の意思で相続放棄する」旨を、同封されている回答書に記載してください。回答書への記入が完了したら、家庭裁判所あてに再送します。こちらも3カ月以内に提出する必要があるため、できる限り早く着手することが大切です。

3-6.相続放棄申述受理通知書をチェックする

相続放棄申述書や回答書を提出し、何も問題がなければ家庭裁判所から相続放棄の審判が下されます。後日、相続放棄申述受理通知書が送られてくるので大事に保管してください。

こちらの書類は一度限りの発送となり、紛失しても再発行はできません。もし紛失した場合は、代わりに相続放棄申述受理証明書を発行してもらう形となります。

相続放棄申述受理証明書は何度でも発行可能ですが、請求するには手数料(150円)が発生します。手数料はそこまで高くないですが、負担には変わりないので通知書を保管しておいたほうが賢明です。

4.被相続人が連帯保証人の場合

被相続人が自ら借金を抱えていたのではなく、連帯保証人として債務を抱えていたとしましょう。これらの保証債務もまた、相続財産の一つです。

保証債務を相続放棄する際には、契約が書面で交わされているかを確認してください。保証契約は書面を通さないと成立せず、口約束だけでは効果を発揮しません。つまり書面が存在しなければ、そもそも連帯保証人に該当しないわけです。

ほかにも消滅時効を援用できたり、継続的保証などで責任を負わなかったりすることもあります。相続放棄は取り消しができないので、手続きする前に債務の状況を弁護士と確認しましょう。

5.借金があるときの相続税について

借金を単純承認した場合、その金額は原則として相続税から差し引かれます。このように借金の額を差し引く方法が債務控除です。ここでは債務控除の仕組みを詳しく解説していきます。

5-1.借金は債務控除の対象になるものとならないものがある

一口に借金とは言っても、すべてが債務控除の対象になるわけではありません。これらの種類を押さえ、納税に備えるようにしましょう。

5-1-1.債務控除の対象となるもの

債務控除の対象になる種類の一つとして挙げられるのは、知人や金融機関等からの借金です。こちらは元本に加え、利息も含まれます。

債務者がほかにもいて、彼らと連帯債務を抱えていた場合も同様です。連帯債務では、基本的に被相続人が負担すべき金額を控除します。

5-1-2.債務控除の対象とならないもの

反対に債務控除の対象にならないものが、保証債務です。元々お金を借りていた人が別にいて、被相続人がその人物(主たる債務者)の保証人になっていたケースが挙げられます。

しかし主たる債務者が一向にお金を返す気配がなく、保証人である被相続人に返済が迫られているケースもあるでしょう。この場合は通常の債務と同様に、控除できるとみなされます。団信生命保険付きの住宅ローンも、債務控除が認められないので注意してください。

5-2.相続税の計算方法

ここでは資産を7,000万円と仮定したうえで、相続税の計算方法を解説しましょう。まずは、以下のように基礎控除を計算します。

基礎控除=3,000万円+(600万円×法定相続人)

法定相続人が3人いる場合、基礎控除額は3,000万円+1,800万円で4,800万円です。加えて葬祭費用や借金も、同様に相続した資産全体から控除します。仮に葬祭費用が100万円、借金が900万円であれば「8,000万円−(4,800万円+100万円+900万円)」で計算できます。

こちらを計算すると、課税総額は2,200万円です。あとは法定相続分や「相続税の速算表」により、最終的な相続税額が求められます。

6.相続財産に借金が含まれるときは弁護士に相談しよう

財産調査や相続放棄の手続きは、想像以上に複雑な知識が求められます。また3カ月以内に申述しなければならず、時間の余裕もほとんどありません。

そのため手続きをしたいのであれば、近くの弁護士に相談することをおすすめします。相続放棄に必要な手続きを代わりに行ってくれます。

弁護士も事務所によってサービス内容や費用が異なる可能性もあるので、複数から見積もりをもらうとよいでしょう。

7.まとめ

相続財産に借金がある場合には、相続するか放棄するかを決めなければなりません。返済額があまりにも大きいのであれば、相続放棄を選ぶのが一般的です。

財産を引き継ぐ際には、相続税の計算もあらかじめしておく必要があります。税金をしっかりと納められるよう、相続人らと力を合わせて財産管理してください。ただし相続はトラブルも少なくないので、あらかじめ弁護士にも相談するとよいでしょう。

弁護士法人池袋吉田総合法律事務所では、相続に関する無料相談を受け付けています。相続でお困りの方は、ぜひ当事務所までご相談ください。

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