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遺産の使い込みとは

遺産の使い込みは,法律的には使途不明金の問題と言われることが一般的です。
使途不明金の問題は,被相続人が存命中は判明せず,亡くなった後,銀行の取引履歴を調査したところ判明することが通常です。
使途不明金の問題は,相続人の一人による使い込みですから,被相続人が有していた(使い込んだ)相続人に対する損害賠償請求権または不当利得返還請求権を相続するという構成になります。
実務上,不当利得返還請求権という法律構成を採用することが多く,現時点から10年間しか遡った請求しかできないことになります。
これは,銀行実務上,多くの銀行が過去10年分の取引履歴の開示しかしないため,10年以上遡った証拠を取得することが困難であるということも関係しているように思われます。
相手方の反論
使途不明金の問題は,相続問題の難問と言われています。
使途不明金を追求する側としては,
- 誰が引き出しかを特定しなければならない
- 一般的に追求する側は被相続人と疎遠であったことが多く,被相続人の生活状況がよく分からないことが通常である
ためです。
他方,使途不明金を追求された側としては,
- 被相続人のために引き出して費消したものの,逐一領収書など保管していないこと
- 使途不明金を追及されるまでは共同相続人間の関係も比較的良好であることが多く,まさか使途不明金を追求されるとは思わなかった
ためです。
以上のように,使途不明金を追求する側も,追及される側も難しい訴訟となります。
使途不明金と遺産分割調停
前述のように,被相続人が有していた(使い込んだ)相続人に対する損害賠償請求権または不当利得返還請求権を相続するという構成になります。
これに対して,遺産分割調停とは相続開始時(死亡時)に被相続人が有していた遺産を分割する手続です。使途不明金は,既に使い込まれてしまっている金銭ですから,相続開始時に被相続人が有していた遺産ではなく,遺産分割調停の対象になりません。
ただし,使途不明金であることを認めていれば,遺産分割調停内でまとめて話し合うことができます。
使途不明金であることを否定していれば,遺産分割調停内で一括して解決することは不可能であり,別に民事訴訟を提起する必要があります。
使途不明金訴訟における,よくある反論
使途不明金訴訟における,被告側(追及されている側)の反論としては,
- 自分は引き出していない
- 引き出したものの,被相続人へそのまま交付した
- 引き出して,被相続人のために費消した
- 被相続人から贈与を受けた
などの反論が多くみられます。
したがって,まず誰が引き出したかという点を確定させる必要があります。引き出し時点が最近であれば,ATMの防犯カメラ映像を取得することも考えられます。
ただし,少なくとも弁護士会照会の方法による必要があり,個人が銀行等に依頼しても拒絶されることが通常です。
その他の反論については,まずは客観的な証拠収集に努めるべきでしょう。
例えば,要介護認定記録は「金銭の管理」という項目があり,比較的詳細に記載されています。また,病院のカルテにヒントがあることも見受けられます。
被相続人のために費消したという反論も考えられますが,被相続人自らが十分な金銭管理をしていたと言えない限り,金額次第ではその使途を説明すべきでしょう。
当事務所の取扱い例では,墓地購入費用・住宅リフォーム(バリアフリー化)などが見受けられました。
使途不明金追求の仕方
以上のように,まずは客観的な証拠の収集に努めるべきです。要介護認定記録については,保管期間が5年という役所が多いようです。
また,使途不明金では前述のような様々な反論が想定されることから,専門化に依頼することをおすすめします。実際に,交渉で終了することは少なく,訴訟になることも多いためです。
当事務所の取り扱い実績
当事務所では,現在,使途不明金について追及する側(請求側)のみお受けしております。ただし,当事務所の弁護士は,使途不明金についてかつては追及された側(被請求側)の経験もあり,実績も豊富です。
事件の裏側を知っておくことは,相手方の反論を事前に想定するという意味でも極めて有用です。
使途不明金は複雑な問題ですので,是非当事務所にご相談ください。